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2010~2012年度プロジェクト
概要

プロジェクト名

近代村落小学校の設立に関する基礎的研究

メンバー

  • 【プロジェクトリーダー・総括】
    馬場 弘臣(教育研究所・准教授)
  • 【研究史の整理】
    沓澤 宣賢(総合教育センター・教授)
  • 【研究史の整理】
    山本 和重(文学部歴史学科日本史専攻・教授)
  • 【研究史および史料の整理】
    神谷 大介(文学部歴史学科日本史専攻・非常勤講師)[2011年度~]
  • 【史料の読解と校正】
    椿田 卓士(学園史資料センター・学園史編纂員)
  • 【史料の整理とデジタル化作業】
    徳原 彩恵(学園史資料センター・学園史編纂員)

研究内容・研究目的

明治5年(1872)の学制制定によって、日本で最初の近代的学校制度がスタートした。このような明治以降における近代的教育の、とくに制度史的研究については、教育学の分野で蓄積がなされている。しかしながら学校創設の具体的な現場における研究については、自治体史(市町村史)などで部分的に触れられている程度で、本格的な研究は少ないのが現状である。とくに原史料を用いた歴史的な手法による研究はきわめて少ないといえよう。ここで対象としたいのは、近代的な行政制度(市町村)ができる以前の、江戸時代の「村」に設置された「村落小学校」と呼ばれる小学校の始期についての研究であり、主に明治7~8年頃を中心に、学制の制定にともなう明治政府の政策と具体的な小学校創立との関係について検討する。

学術的意義

個別村落小学校の創立期に関しては、研究自体は少ないので研究史的にも萌芽的研究と言える。また、本研究では、史料の解読と公開も目指しているが、テキスト化された史料を公開することで、今後の研究の発展や教育的な効果も期待できる。史料の公開については、いわゆる翻刻・刊行以外にもホームページや電子書籍としての公開も考えている。近年のデジタル化の発展はめざましく、これからはとくに電子書籍(電子史料)化が急速に進むと思われる。こうした潮流にあわせた公開方法を考えることで、今後の教育・研究資料のあり方についても意味のあるものを目指したい。さらに教育の危機が叫ばれている現代社会において、近代教育の出発点について再検討することは、現状的にも意義のあるものと考える。

プロセス

研究対象は、栃木県安蘇郡閑馬村(現栃木県佐野市)の閑馬学舎(現佐野市立閑馬小学校)である。閑馬学舎関係史料はプロジェクトリーダーが収集した原史料で、本プロジェクトはこの原史料の整理から始まる。第1段階として、初年度にはこの史料群(180点程度)の史料目録を作成し、ホームページを開設して、広く一般に公開することをめざす。そのいっぽうで、とくに重要な史料については、初年度から2年度にかけて、解読(筆耕)作業を行ってテキスト化をはかる。テキスト化した史料は、3年目に翻刻・刊行を目指すが、同時にホームページでも公開できるようにする。ホームページでの公開は、現状ではPDFファイルを考えているが、今後の電子書籍の発展を考えれば、時代の発展に応じた処理と公開の方法を考えたい。閑馬学舎の研究については、3年目に研究論文としてまとめる予定である。

成果予定

  • 研究対象となる閑馬学舎関係史料目録の作成と公開
  • 閑馬学舎関係史料の翻刻と刊行
  • 閑馬学舎関係史料目録と史料のホームページ公開
  • 『教育研究所紀要』などへの投稿

2011年度研究計画(継続)

本研究は、二つの課題からなる。第一は、栃木県安蘇郡閑馬村(現栃木県佐野市)の閑馬学校を対象として、近代成立期における「村落小学校」の創立について、明治政府の教育政策との関係で具体的・実証的に研究するという教育史研究の側面である。第二は、研究対象となる閑馬学校に関する史料そのものが新出史料であるため、これを整理・目録化することからはじめて、研究素材および教育教材として広く公表していくという史料学的研究である。昨年度は、初年度の計画に従って、この閑馬村関係史料群245点を整理して目録化し、そのうちとくに閑馬学校に関する史料68点については、東海大学教育研究所『研究資料集』第18号で紹介するとともに、その史料的意義に関して論じた。また、これも当初の予定通り、個別プロジェクト研究の成果を中心に、史料調査や史料整理、史料翻刻など、歴史研究の基本となるような方法論についてこれまでの研究成果をまとめたもの、およびその他の歴史研究の成果を公表したホームページを「情報史料学研究所」として開設した。ここでも閑馬学校の史料目録とその意義について公表するとともに、史料の整理過程では、ウィンターセッションの「史料管理学演習」の授業において具体的な教材として整理作業を行なったので、学生の許可を得て、この様子についてもホームページ上で公開した。さらに、閑馬学校関係史料のうち、栃木県からの通達御用留など、重要史料4点について解読・筆耕作業を進めた。

本年度は、まず最終年度における閑馬学校に関する史料の翻刻・刊行に向けて、史料の解読・筆耕作業を引き続き進めていく。とくに筆耕・校正作業が終わった史料については、これも当初の計画に従い、試みとして「電子書籍」の技術を応用した「電子史料」としてホームページ上に順次、公開していくことを目指す。「電子書籍」の技術としては、現在、PDFファイルの他に、EPUB3.0とXMDFを想定しているが、いずれも縦書き表記に対応するのが7月以降であるとアナウンスされているので、状況に応じて取り組みたい。また、「電子史料」の公開にあたっては、研究はもとより、歴史の教育素材として対比できるように原文書(原史料)の写真版もあわせて公開したいと考えている。このような歴史史料の「電子書籍(電子史料)」による公開自体が新たな試みであり、これからはそれが一つの潮流となることを考え、これらの過程についてはまた、論文としてまとめる予定である。なお、最終年度に予定している閑馬学校関係史料の翻刻・刊行は、こうした作業の蓄積として実施するつもりである。さらに、ホームページには、閑馬学校だけではなく、閑馬村関係史料全般の目録についても公表する予定となっている。  閑馬学校を対象とした近代村落小学校の創立期に関する研究については、近世史を専門とするプロジェクトリーダーにとって新たな研究分野であるため、史料の筆耕・解読を進めるいっぽうで、近代教育に関する研究史や閑馬学校のある佐野市周辺の地域史的研究などについて、具体的な研究会体制をつくって研究を進めていく。研究会には大学院生なども積極的に参加させるようにし、最終年度に予定している研究論文の作成に向けて準備を進めたいと考えている。

2012年度研究計画(継続)

当初の計画では、栃木県安蘇郡閑馬村(現 栃木県佐野市)の閑馬学校を対象として、個別実証研究の少ない近代成立期における「村落小学校」の創立について、明治政府の政策との関係で具体的に検証するという教育史的側面を重視していた。しかしながら、閑馬学校に関する史料そのものが、いわゆる古文書の新出史料であったことから、これを整理していく課程で、ウィンターセッション科目である「史料管理学演習」において、史料の解読から目録作成、並び替え、法量測定など、史料の整理法について具体的に体験する素材として活用し、そうした史料整理についての教授法を具体的・実証的に研究する教育素材としての側面にも注目するようになった。こうした史料整理についての教授法は、体験を通じて伝承されることが多く、科学的な方法論について必ずしも研究が活発なわけでもない。したがって本プロジェクト研究では、閑馬学校に関する教育史としての研究と並行して、史料整理教授法についての基礎的研究の充実化をはかることとした。新出史料の整理から解読という段階を踏まなければならない本プロジェクトのような研究は、それ自体、成果を出すために時間がかかることも事実である。初年度は、この閑馬村関係史料245点の史料整理と目録作成を進め、このうち閑馬学校関係史料68点を東海大学教育研究所『研究資料集』第18号で紹介するとともに、その史料的意義について論じた。また、本プロジェクト研究の詳細と経過およびこれまでの研究成果を公開するためのWebサイト「情報史料学研究所」(http://www.ihmlab.net/)を開設し、ここで閑馬学校関係史料目録を公開した。2年目は、プロジェクトリーダーが病気(甲状腺眼症)のために3度入院したことから研究会の開催などに支障を生じたが、成果として同じく『研究資料集』第19号に閑馬村関係史料の整理法について論じた「民間史料の整理法に関する一考察―栃木県安蘇郡閑馬村関係文書を事例として―」を発表した。また、情報史料学研究所サイトでは、閑馬村関係史料目録全般の検索システムを構築して公開するいっぽう、閑馬学校関係史料をデジタルカメラで撮影し、そのうち56点をPDFファイルにして検索システム上で閲覧できるようにした。最終年度である本年度は、こうした成果の上に立って以下の3点から研究成果をまとめたいと考えている。

第一に、閑馬村関係史料を素材として、史料管理学演習で3年間にわたり実践してきた史料整理に関する教授法の、その成果と課題について研究発表を行なうとともに、これを論文としてまとめることである。

第二に、これまで解読・筆耕を続けてきた閑馬学校関係史料のうち、近代成立期の「村落小学校」に対する政策や実態を研究する上で重要と思われるものを選んで、史料集として翻刻することである。史料集には解説をつけることで、創立期の「村落小学校」についての基礎的研究に関する責務を果たしたい。また、この史料集そのものが今後の近代教育史研究の基礎史料となるようにしたいと考えている。なお、この翻刻プロジェクトには、プロジェクトメンバーに大学院生やOBを加え、研究会を開催しながら進めている。

第三としては、史料集は印刷された刊行物だけではなく、情報史料学研究所サイトにおいて、「電子史料」としても公開する予定である。これは史料の広範な流通と活用を促すためのテストケースであり、現段階では、PDFファイルとEPUB3.0フォーマットによる電子史料化を予定している。

業績

学術論文
  • 馬場弘臣「村落小学校栃木県安蘇郡閑馬学校関係史料目録について」東海大学教育研究所『研究資料集』第18号 p.121-129
  • 馬場弘臣「民間史料の整理法に関する一考察―栃木県安蘇郡閑馬村関係文書を事例として―」東海大学教育研究所『研究資料集』第19号 p.163-175
その他
  • 一昨年度にHP「情報史料学研究所」(http://www.ihmlab.net/)を開設し、閑馬小学校関係目録を公開した。昨年度は閑馬村関係文書目録全体の検索システムを構築して公開し、この中で閑馬小学校関係史料56点の画像をPDFファイルで閲覧できるようにした。

現在のプロジェクト

2014~2016年度東海大学文明研究所コアプロジェクト
「震災復興と文明」

過去のプロジェクト

2013~2015年度
「東海大学の創立と発展に関する基礎的研究」 ※当プロジェクトは2014年の組織変更のため、廃止
2010~2012年度
「近代村落小学校の設立に関する基礎的研究」
2007~2009年度
「「風聞集」にみるペリー来航から幕末維新期にかけての社会変動に関する研究と関係史料集の翻刻」