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2010~2012年度プロジェクト
近代教育史叢書

翻刻にあたって

『近代教育史叢書1』表紙

『近代教育史叢書1』表紙

 この資料集は、2010年度に東海大学教育研究所個別プロジェクト研究として採択された「近代村落小学校の設立に関する基礎的研究」の研究成果の一部である。研究期間は2012年度までの3か年であった。「村落小学校」とは、明治22年(1889)に施行された市町村制以前の、江戸時代の「村」を単位として成立したような形態の小学校をいう。明治政府は明治5年(1872)に我が国最初の近代的な教育制度である「学制」を制定し、国民皆学を目指した取り組みに着手した。その後、明治12年(1879)に「教育令」、明治19年(1886)に「小学校令」が公布されるのだが、このプロジェクト研究はまさにこの時期の小学校の実態を実証的に研究しようというものであった。対象となるのは、栃木県安蘇郡閑馬村(現・佐野市)の閑馬小学校で、明治7年(1874)に開校し、現在も佐野市立閑馬小学校として続いている。閑馬小学校に関する資料は、2003年にYAHOO!のオークションで購入した閑馬村関係資料の中に含まれていたものである。

 このプロジェクト研究では、①閑馬村の資料群を整理して目録を作成し、公開すること。②資料整理の一部を私が担当しているウィンターセッション科目「史料管理学演習」の授業の一環として行なうこと。③閑馬小学校関係資料を資料集として刊行すること。④資料目録と資料集を公開するためのホームページを開設することの四点を当初からの目標としていた。なお、資料目録についてはWebで検索できるようなシステムを構築すること、資料の公開は電子書籍の形式での公開も視野に入れることを目指していた。プロジェクトのメンバーには、沓澤宣賢東海大学総合教育センター教授、山本和重東海大学文学部歴史学科日本史専攻教授および東海大学学園史資料センター学園史編纂員の椿田卓士氏・徳原彩恵氏に参加いただき、2011年度からは新たに東海大学文学部非常勤講師の神谷大介氏に加わっていただいた。

『近代教育史叢書1』表紙

『近代教育史叢書2』表紙

 順調にスタートを切ったかにみえたプロジェクト研究であったが、2011年に私自身が甲状腺眼症という病気を患って入退院をくり返したために大幅に遅れが生じてしまった。資料集の刊行が今になったのもそのためである。しかしながらその後、さまざまな方面からご協力をいただくことでこのプロジェクトも少しずつではあるが歩を進めることができた。まずは授業での活用である。すでに2009年度から学園史資料センターの協力を得て「史料管理学演習」の授業で整理作業を始めていたが、これをプロジェクト研究の中に組み込むことで、2010年度、2011年度も継続して実習素材として有効活用することができた。受講する学生たちにとって現物の資料は何よりの教材である。また、2011年4月11日には「情報史料学研究所」というホームページを開設し、プロジェクト研究に関する情報を発信できるようにした(http://www.ihmlab.net/)。さらに2012年5月22日には情報史料学研究所のサイト内で閑馬村文書(もんじよ)および閑馬小学校関係資料の「史資料目録検索システム」を公開し、あわせて資料の写真版(PDFファイル)も公開した。これらWeb上のシステムの開発は、すべて学園史資料センター学園史編纂員の目七哲史氏にお願いした。さらに、本資料集を刊行するための勉強会を立ち上げ、プロジェクトメンバーの他に東海大学大学院生の塚越俊志氏と菊地悠介氏にも参加いただいた。勉強会では関係した論文・文献の輪読から資料の検討などを行なったが、検討を重ねていくうちに、資料集の他に資料目録も刊行した方がよいのではないかという意見が出され、検討を重ねた結果、『近代教育史叢書1 明治期の村落小学校関係資料集―栃木県安蘇郡閑馬小学校―』『近代教育史叢書2 栃木県安蘇郡閑馬村・閑馬小学校資料目録』の二冊を刊行することになった。また、単に資料目録と資料集を刊行するだけではなく、勉強会での成果もあわせて公表することにした。これらの経緯については、『近代教育史叢書2』の拙稿「栃木県安蘇郡閑馬村文書と明治期の閑馬小学校関係資料について」で詳しく述べているので参照いただければと思う。『近代教育史叢書2』には、目七氏がウェブサイトの開設に関する論考「ウェブサイトと史資料目録検索システムの構築」を、また塚越氏には明治5年(1872)の「学制」に関係した人たちを「人物辞典」として紹介した「明治5年の「学制」にかかわった人たち」を寄稿していただいた。さらに『近代教育史叢書1』には神谷氏に「明治初期教育制度の展開と閑馬小学校」を寄稿いただいている。

 資料集を刊行するにあたっては、横浜開港資料館の平野正裕氏が主催する「さがみ古文書研究会」の加瀬大氏と椿田有希子氏に資料の筆耕をお願いした。また、プロジェクトメンバーである神谷氏と徳原氏にも一部筆耕していただいた。「さがみ古文書研究会」には2007年度~2009年度における個別プロジェクト研究の成果として刊行した『史料叢書「幕末風聞集」―東海大学付属図書館所蔵史料翻刻―』の筆耕でもお世話になっている。筆耕した資料の原典確認と校正については椿田卓士氏が担当し、資料以外の校正については徳原氏と菊池氏にお願いした。また、徳原氏には全体のとりまとめと校閲も担当してもらっている。なお、閑馬村および閑馬小学校に関する資料調査や文献の収集のために栃木県立文書館および栃木県立図書館にお世話になった。記して感謝の意を表する次第である。

 最後になったが、個別プロジェクト研究を採択していただいた吉川政夫教育研究所所長に謝意を表したい。また、個別プロジェクト研究を進めるにあたって、こまごまとした事務手続きを進めていただいた渡辺律子氏にも同じく感謝の意を表したいと思う。さらに本資料集の印刷と製本を引き受けていただいた信友印刷株式会社の大矢曉氏にもたいへんお世話になった。先の『史料叢書「幕末風聞集」―東海大学付属図書館所蔵史料翻刻―』と同様に本資料集もワープロソフトの「一太郎」で全編を作成している。何分にも素人による編集のために今回も苦労をかけたことと思う。

 これであと残る目標は、資料を電子書籍型の資料として公開することである。電子書籍の形式としては、PDFファイルの他にE.PUB3.0形式での公開を考えている。リフロー(文字サイズを変更しても行の文字数などを自動的に調整して表示できる仕組み)機能など、電子ブック形式のアプリケーションでの活用が便利だからである。これも資料集が完成しなければ次のステップには進めなかった。改めて関係各位に感謝したい。それだけにこの資料集が、そして個々の資料が今後の初等教育研究の基礎となればと願わずにはいられない。資料集を出しただけで終わりではなく、研究はまだ緒についたばかりである。

2014年1月  東海大学教育研究所教授・情報史料学研究所代表
馬場弘臣

目次

『近代教育史叢書1 明治期の村落小学校関係資料集―栃木県安蘇郡閑馬小学校―』

翻刻にあたって 馬場 弘臣  Ⅰ

凡  例

【資料翻刻編】

第一部 小学校行政関係通達留・・・・・・・・・・1
01.明治七年九月より 師道館御用留………1
02.明治七年一二月より 閑馬学舎御布令写書………10
03.明治八年一二月より 閑馬学舎関係通達留………25
04.明治九年七月より 閑馬学校関係通達留………43
05.明治九年一二月より 閑馬学校関係布達留………50
06.明治一〇年五月 閑馬学校関係通達留………70
07.明治一〇年一一月より 閑馬小学校関係通知留………75
08.明治一〇年一一月 閑馬小学校関係通達留………81
09.明治一〇年一一月 閑馬小学校関係通達留………86
10.明治一二年四月 閑馬小学校関係通達留………92
11.明治一二年四月 閑馬小学校関係通達留………93

第二部 閑馬小学校関係資料・・・・・・・・・・95
12.明治七年一二月 師道館小学給料ならびに就学・不学取調書………95
13.明治八年八月 閑馬学舎月末出納表控………95
14.明治八年一二月 閑馬学舎小学統計ケ条取調書………100
15.明治九年一月 閑馬学舎出納表………102
16.明治九年一月 閑馬学舎概覧表控………103
17.明治九年五月 閑馬学舎小学舎長取調書………128
18.明治九年九月 小学正則手続………128
19.明治九年一二月 閑馬学舎小学統計取調書………142
20.(明治九年一二月) 閑馬学舎小学統計取調書………143
  21.明治一〇年一〇月 進級試験賄料受取証………144
22.明治一一年五月 病気につき小学校訓導休暇願い………145
23.明治一一年六月 藤掛兼蔵退校願い………145
24.明治一二年二月 安蘇郡長小学校巡視につき通知………145
25.明治一三年一二月 尾花はつの退校願い………146
26.(明治一三年) 閑馬学校諸費につき閑馬村会議案………146
27.(明治一三年) 閑馬学校取調書………147
28.明治一四年一月 閑馬学校職員旅費仕上げ簿………149
29.0明治一五年一月 訓導森川小次郎の給料受取証………150
30.明治一六年六月 服装等規制につき文部省普通学務局長通牒………150
31.明治一六年六月 職員品行の件につき栃木県令通達綴………151
32.明治一六年一二月 木村まつの退校願い………152
33.明治一七年五月 森川小次郎の寄附名簿取消し届………152
34.明治一七年六月より 閑馬学校入校請書綴………153
35.明治一七年一一月 小林ツねの退校願い………154
36.明治一七年一二月 小林万造の退校願い………154
37.明治一七年一二月 山田留吉の退校願い………155
38.明治一八年一月 松村マツの入校証………155
39.明治一八年三月 木村とめの退校届………156
40.明治一八年三月 桑子幸三郎の退校届………156
41.明治一八年四月 長浜忠三郎の退校願い………156
42.明治一八年六月 栗原タマの退校届………157
43.明治二〇年一二月 安蘇郡第二高等小学区聯合会日誌………157
44.明治二一年一二月 第二高等小学校教育費支出予算書………172
45.明治二二年度 安蘇郡第一一番学区尋常閑馬学校収支予算案文………175
46.明治二二年度 安蘇郡第二高等小学校経費予算議案………176

【解説・考察編】
明治初期教育制度の展開と閑馬小学校   神谷 大介………183
明治期の閑馬小学校関係資料について   馬場 弘臣………193

関係者一覧・・・・・・・・・・201

『近代教育史叢書2 栃木県安蘇郡閑馬村・閑馬小学校資料目録』

【資料目録編】
栃木県安蘇郡閑馬村・閑馬小学校資料目録   馬場 弘臣・・・・・・・・・・2
栃木県安蘇郡閑馬村・閑馬小学校資料目録 凡例………2
栃木県安蘇郡閑馬村・閑馬小学校資料目録………5
閑馬小学校「通達留」細目録   神谷 大介・・・・・・・・・・16
閑馬小学校「通達留」細目録 凡例………16
閑馬小学校「通達留」細目録………17

【解説・考察編】

栃木県安蘇郡閑馬村文書と明治期の閑馬小学校関係資料について   馬場 弘臣・・・・・・・・・・28
 1.閑馬村文書と個別プロジェクト研究計画………28
 2.閑馬村文書の資料整理と史料管理学演習………30
 3.閑馬村と閑馬小学校に関する資料の特徴について………34
 4.本書の構成について………36

ウェブサイトと史資料目録検索システムの構築   目七 哲史・・・・・・・・・・39
  はじめに………39
 1.ウェブサイトについて………40
  1-1 設計思想とサイト概要……40
  1-2 コンテンツの内容……42
  1-3 現在までのアクセス状況……44
  1-4 今後の計画……46
 2.史資料目録検索システムについて………47
  2-1 検索システムの開発方針……47
  2-2 検索システムの機能と特色……49
  2-3 今後の課題と計画……52
  おわりに………53

明治5年の「学制」にかかわった人たち   塚越 俊志・・・・・・・・・・54
  はじめに………54
 1.「学制」にかかわった人たち………54
   大木喬任/岩佐 純/辻 新次/箕作麟祥/内田正雄/瓜生 寅
   河津祐之/木村正辞/長  熒/西潟 訥/長谷川泰/織田尚種
   杉山孝敏
 2.「学制」の研究に関連して………61
  むすびに………62

関係者一覧・・・・・・・・・・66

現在のプロジェクト

2014~2016年度東海大学文明研究所コアプロジェクト
「震災復興と文明」

過去のプロジェクト

2013~2015年度
「東海大学の創立と発展に関する基礎的研究」 ※当プロジェクトは2014年の組織変更のため、廃止
2010~2012年度
「近代村落小学校の設立に関する基礎的研究」

過去のプロジェクト

2007~2009年度
「「風聞集」にみるペリー来航から幕末維新期にかけての社会変動に関する研究と関係史料集の翻刻」