2015年度
東海大学文明研究所コアプロジェクト3
報告
プロジェクト名
「震災復興と文明」
1.研究組織
- 沓澤 宣賢(総合教育センター教授,文明研究所所長)
※アドバイザー - 杉山 太宏(工学部土木工学科教授)
- 馬場弘臣(教育研究所教授)
- 田中彰吾(総合教育センター准教授)
※プロジェクト・リーダー
2.プロジェクトの趣旨
震災復興と文明の関係に関して、人間学的観点、歴史学的観点、工学的観点を横断しつつ、学際的な考察を行う。周知のとおり、2011年3月11日に発生した東日本大震災は、きわめて大規模な自然災害であった。被災地域の復旧・復興という具体的な課題が未解決であるだけでなく、原子力発電で利用される放射性物質の問題や、現代都市の津波に対する脆弱性など、現代文明のあり方を反省させる契機ともなった。「調和のとれた文明社会の創造」を建学の理念に掲げる本学の研究所にとって、震災復興にともなう文明論的課題は重要な研究課題である。
3.個別の研究テーマ(昨年度分の報告と今年度の予定)
(3-1)田中彰吾「震災復興とランドスケープの問題」
2014年度は、被災地の写真集(震災直後、1年後等)を集め、ランドスケープ(景観・風景)がどのように変貌したかを確認する作業を行った。
被災地のランドスケープ(景観・風景)を検討するうちに、「里山」「里海」が重要なキーワードであると判明した。被災地の一部では、海・里・森の連環という観点から、生態系を維持しつつ、生業としての漁業や林業を再興することが試みられている(環境省の関与)。なお、その一方で、三陸沿岸約370kmに高さ10~15mのスーパー防潮堤を建設する計画もあり(国土交通省主導)、生態系の破壊とランドスケープの変化が危惧されている。
2015年度は、以上の観点から気仙沼と陸前高田の視察、視察を踏まえての論文執筆を予定。
(3-2)馬場弘臣「元禄大地震・宝永富士山噴火と小田原藩―大災害復興過程における年貢回復策を中心に―」
2014年度は、本テーマに沿って研究を進め、文明研究所第4回研究会において「元禄大地震と宝永富士山噴火―小田原藩の年貢データから―」と題する研究報告を行なった。このうち小田原藩領全体の年貢データ分析については、研究紀要『文明』第19号に掲載した。2015年度は、続編として小田原藩領村々における個別の年貢データの分析を行ない、全体の年貢データとの関係や徴租法の問題等を検討し、年貢回復策の全体像を検討したい。さらに、災害復興の問題を耕地だけではなく、河川や山野にも広げて分析していく。
なお、3.11東日本大震災の現況調査として、本年度は、宮古から久慈方面への視察を予定している。
- 研究報告:「元禄大地震と宝永富士山噴火―小田原藩の年貢データから―」,東海大学文明研究所第4回研究会(2014年12月)
- 論文:「元禄大地震と宝永富士山噴火 その1―相模国小田原藩の年貢データから―」『文明』第19号(2015年3月)(PDF:1.1MB)
(3-3)杉山太宏「震災復興のためのハード対策とソフト対策―地盤種別・地域・地形と地盤災害の特徴―」
2014年度は研究テーマとして「震災復興のためのハード対策とソフト対策」を掲げ情報収集を行ったが、対象範囲が広いことから、地盤災害、特に地盤沈下被害からみたハードとソフト対策という切り口で、震災による地盤被害やその後の対策と対応、地盤の種類による被害の特徴等を調べまとめることに的を絞った。3.11の震災では、東北地方は勿論のこと、関東エリアにも多大な地盤災害が発生し、震源から400km以上離れた本学周辺でも被害を受けた。その被害は、当時の踏査した結果から極めて軟弱な粘土地盤に集中していることがわかっている。地震時には、液状化現象を示す軟弱な砂地盤が注目され、「粘土地盤は液状化しないから大丈夫」と考えられることが多いが、文献や聞き取り調査によると他の地域や過去の地震でも粘土地盤が被害を受けた報告も見受けられる。そこで、仙台市と諏訪市で地盤沈下被害の視察と聞き取り調査を行い、先月の4月末には佐賀県有明海沿岸の地盤沈下被害についても調査した。
2015年度は、これらの視察・調査結果から地震時に生じた地盤沈下被害ならびに粘土地盤の地盤沈下についてその特徴をまとめ、その対策について最近の知見を取り入れながら検討し取りまとめを行う。また、仙台市と諏訪市については、再度現地へ赴き、聞き取り調査を行う予定である。