小田原藩士230年の記録「吉岡家代々由緒書」 その4 由緒書とは?

歴史コラム
小田原藩士230年の記録「吉岡家代々由緒書」 その4 由緒書とは?

「由緒書」とは何か?と辞書を引いてみたら、『広辞苑』には、「①物事の由緒を記した文書。②婚姻に際し両家が交す親類書」とありました。『国語大辞典』によると、「物事の由来、または家の来歴や系譜・親類を書いた書類」だそうです。「由緒書」という語で引いて出てくるのは、『広辞苑』と『国語大辞典』だけでした。ちなみに「由緒」で引いてみると、両辞典の他に『大辞林』『新明解』『明鏡国語辞典』『学研国語辞典』にも出てきます。これも代表として『国語大辞典』の例を挙げると、「①物事の由来した端緒。物事のそもそもの起こり。また、物事の今に至るゆえん。伝えて来た事柄。来歴。いわれ。② 物事を行うとき、その正当性の裏づけとなる事柄。行動の根拠。特に中世、所領諸職を知行するいわれ。③縁故。縁。ゆかり」となっています。まぁ~基本的に似たり寄ったりです。

「由緒」とは、物事の由来とか来歴を示すもので、それを文書にしたものが「由緒書」となります。何となく、うさんくさい匂いがするのは、由緒が必ずしも正確なものではないと考えられている節があるからでしょう。こうした「由緒」がもつ江戸時代の社会的意味について、研究の端緒となったのが、大友一雄さんの「献上役と村秩序-勝栗献上をめぐって-」徳川林政史研究所『研究紀要』昭和61年度、1987年3月。「献上役負担と運動の論理-遠州豊田郡只来・山東村の勝栗献上を事例に-」『国史学』第132号、1987年5月。「近世の献上儀礼にみる幕藩関係と村役-時献上・尾張藩蜂屋柿を事例に」徳川林政史研究所『研究紀要』23号、1989年3月(後、すべて『日本近世国家の権威と儀礼』吉川弘文館、1999年12月に収録)の一連の研究でした。当時、関東近世史研究会の常任委員を務めていた私らは大きな衝撃を受けたものでした。

大友さんの論文は、将軍家への献上を語る村の由緒が村の権益を守ったり、新たな負担を回避する論理として使われる事例を提示して、近世社会における儀礼と由緒の意義について考察されたものでした。ちょっと大ざっぱなまとめですが…(^^;)私も大友さに刺激を受けて、稲葉氏小田原藩の「鮎」献上の研究などをやっていたのですが、まだまともな論文になっていません。

いずれにしても、これはマルク主義的な唯物史観が後退する中で、アナール学派的な社会史が広まっていく過程で、近世史、いや日本史研究全体が大きな転換期を迎えていた1980年代後半を代表する論文であるといっても過言ではないと思います。そこから、儀礼論や由緒論の研究がたくさん出てきましたから。詳しくはまた別の機会に。

で、そこでの由緒は例えば、関ヶ原の戦いの際に家康に勝栗を献上したことで諸役免除の特権を得たとかいう話で、それは確かに事実であったとしても、そうした由緒を村全体から地域全体が共有するようになって行きます。それでも由緒は生きていくのですね。そうなると、由緒って怪しいもんだねとも思われますが、考えてみれば、近世社会は、武家はもちろん、朝廷や公家、そして職人、商人、百姓にいたるまで様々な由緒に彩られた社会であったとも言えます。将軍家自体が「源氏の長者」という由緒を頼りに征夷大将軍を務めているわけですから、近世社会において「由緒」は一定の社会的役割を持っていたわけです。

それを跡づけるのが「家」の成立でしょう。近世社会は全ての階層に「家」が成立したという意味で画期的な社会でした。その中でも武士は、先祖の手柄働きをはじめとして、その来歴こそが重要でした。この場合の「由緒書」の来歴には、家の先祖から始まって、各代の生没、家督、分家、個人的には役職、業績、賞罰などが綴られるのが一般的でした。『寛政重修諸家譜(かんせいちょうしゅうしょかふ)』という、近世史研究には欠かせない史料があります。文字通り寛政期(1789~1801)に幕府の手によって編まれた大名から旗本にいたるまでの「由緒書」の集大成です。戦国時代や近世初頭の記述には少々というか、場合によってはかなり怪しい記事も見られますが、中期以降になると正確に各家の来歴、先ほど言いましたように各代の生没、家督、役職、業績、賞罰などが綴られています。

以前にも書きましたように、各藩でもこうした「由緒書」の類を家臣から提出させています。その来歴と親類こそが武士の「家」にとって重要だったわけです。

そうなると、大友さんの言う「由緒」とはちょっと異なるようですが、でもどちらも近世社会において機能は違っても一定の意義と効力を持っているというところが重要なのです。「吉岡家代々由緒書」は記述が230年に及んでいますから、そうした武家由緒書の集大成というか、典型的なものとしてとらえることが出来るのではないかと思っています。ここら辺は、校正を進めながら、さらに深く考えていきたいなと思っています。

「吉岡由緒書 四」

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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