クラファイ⑥ 緒形拳さんと不惜身命

歴史コラム
クラファイ⑥ 緒形拳さんと不惜身命

平成の相撲ファンならご存じのことでしょう。1994(平成6)年、横綱に昇進した貴乃花が11月23日の昇進伝達式の口上で述べた「不惜身命」(ふしゃくしんみょう)という言葉を。正確には「謹んでお受け(致)します。今後も『不撓不屈』(ふとうふくつ)の精神で、力士として相撲道に『不惜身命』を貫く所存でございます」と述べています。「不撓不屈」は大関昇進伝達式の際にも使っていましたが、ここ新たに「不惜身命」という四字熟語を使ったのでした。この後、昇進式の口上にはこうした四字熟語を使うことが慣例になったように記憶しています。

不惜身命」。『日本国語大辞典』によれば、「仏道を修めるためにはみずからの身命をもかえりみないこと。また、その心構えや態度。」とあります。本来は仏教用語なのですね。身命を帰りまず相撲道に精進する!当時、その言葉の響きにちょっとした感動すら覚えたものでした。ふと貴乃花のことが頭によぎったのは、本日、ネットで2つの記事を見たからでした。

一つは、貴乃花さんが神奈川医科大学の特任教授になったというニュース。
→ https://news.goo.ne.jp/article/sponichi/sports/sponichi-spngoo-20200305-0073.html
もう一つは、「史上最強の横綱1000人アンケート」という記事でした。
→ https://news.goo.ne.jp/article/postseven/sports/postseven-1545259.html

さて、この「不惜身命」という四字熟語、実は緒形拳さんが貴乃花さんに贈ったものだということは、あまりご存じないのではないでしょうか。

気儘・我儘・あるがまま 緒形拳

2003(平成15)年に貴乃花さんが引退された時に書かれたものですね。どうも途中のようです。

貴乃花さんが横綱に昇進したときに四字熟語の言葉を探してと依頼されたそうです。そこで緒形さんは、もともと格闘技が好きだから(「ラヴ・シーンは手順をきっちり決めた格闘技だ」というのも面白ですが…)、ということで最初は「渾身満力」が良いんじゃないかと思った。でも、さて、「花鳥風月」だと変だし、「切磋琢磨」じゃ当たり前すぎるし、いっそ「HOP・STEP・JUMP」とか「黙々横綱」とか…どうもここら辺は行き詰まっている感じがして何だかいいですよね。

そしてあの名文句、うん「不惜身命」一番良いと思いついて薦めたというんですね。さすが書に秀でた方です。もともと役者としても「言葉」にはかなりこだわりがあったと思うんですよね。そうして生まれたこの口上は、「貴乃花といえば不惜身命」というくらい有名な言葉となりました。緒形家には、「不惜身命」と書かれ、手形が押された貴乃花さんの大きな額があります。

余談ながら、「渾身満力」という四字熟語は、このクラウドファンディングのリターンになっています。もうすでにご支援の対象となってしまいましたが、もし支援者が現れなければ、私が人を使って手に入れようかなぁ~と思っていました。この書はA4サイズですが、緒形さんの偲ぶ会にも展示してあったんですよ。

そんなこんなで今日も緒形さんの話題になってしまいました。ちょっとした裏話です(^^)

クラウドファンディングサイト
→ https://academist-cf.com/projects/168?lang=ja

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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