時代劇とは?ジャンル分け試論

歴史コラム
時代劇とは?ジャンル分け試論

時代劇のジャンル分けについて書いていたら、全部消してしまったと書きました。まったくのドジでした。このままにしておくのもシャクですので、改めて書いておきたいと思います。前にも書きましたが、春日太一さんも書かれているように(『時代劇入門』角川新書、2020年)、そもそもカバーする範囲が広い時代劇のこと、そうそう簡単にジャンル分けー分類できるわけではないので、本当に目安ほどに考えてもらえればいいかなと思います。

そもそもなぜ人は分類をしたがるのか、それは人間だけが「分類する」という能力を持っているからであると仰っていたのは、大ベストセラー『「超」整理法』(中公新書、1993年)を書かれた野口悠紀雄さんでした。ただし、いざ「分類」をすると、どっちに入れていいか分らない、あるいはどっちにも入るという「コウモリ」状態に陥ってしまうのが最大の欠点だと、だから変に分類などしないで書類などは「時間軸」に並べて置こうというのがその趣旨だったかと思います。

あ、前置きが長くなってしまいました。あくまでもこれからのための「試論」ということで、ジャンル分けにあたっては、5つの大分類とまず設け、それぞれをさらに分けた小分類を設けたいと思っています。小分類の数は今のところ合計で16です。こんな感じです。

1.人物-取り上げ方
①-1.英雄譚(剣戟ヒーロー物)-剣豪物 ←→ 剣戟(物)・合戦(物)中心
①-2.人情物のヒーロー → 必ずしも剣劇を前提としない
①-3.伝記物…人物の生涯を描く → 必ずしも剣戟を前提としない
2.虚実…実在と非実在 ←→ 史実と創作
②-1.歴史物…史実を基本としたもの → 活歴物
②-2.物語物-創作物…架空の物語
3.形態…剣戟を前提としない、もしくは剣戟は副次的
③-1.剣戟物→剣劇 ←→ 新国劇澤田正二郎による殺陣・立ち廻りの創始
③-2.女剣劇
③-3.人情物-世話物
4.身分・役職
④-1.武家物・御家物
④-2.朝廷物・公家物
④-3.捕者物
④-4.庶民物…町人、百姓
④-5.忍者物
④-6.股旅物…アウトロー
④-7.義賊物
5.その他
⑤怪談物

1番目は人物の取り上げ方によるものです。まずはさまざまなヒーローを取り上げるもので、その中心となるのは剣豪物ですね。つまり剣戟や合戦を中心として、そのヒーローに焦点をあてるもので、これまでの呼び方だと、いわゆる「英雄譚」と呼ばれるものがこれにあたるでしょう。「剣戟ヒーロー」といってもいいかも知れません。

これに対して必ずしも剣戟を前提としない時代劇で「人情ヒーロー」というジャンルです。「赤ひげ」などは典型的ですね。それからもう一つ、その人の一生涯を描いた作品で「伝記物」という表現がよいのかなぁと思っています。

2番目は「虚実-実在と被実在」という分け方です。要するに史実をもとにしたものか、まったくの創作物かということです。史実をもとにしたものは「歴史物」という表現がありますし、河竹黙阿弥の「活歴物」なんてのもよい表現ですね。これに対して創作物は「物語物」といってもいいかも知れません。「物」が2つ出てきますが…。「源氏物語」なんて当時の現代物の創作でしょうが、今では立派な古典の「時代劇」になりますね。

3番目は形態としていますが、要は「日本刀」を中心に弓や槍などの日本の武具を使った「剣戟物」かそれ以外かという分け方になります。時代劇での剣戟といえば、劇団新国劇の澤田正二郎が創始した「剣劇」が重要です。これについてはまた、いずれまとめたいと思います。いわゆる「チャンバラ」ですね。そしてこれ以外となると基本は「人情物になるかと。あれ、そうすると1番目と被ってしまいますね。でも、そんなものなんです。

4番目は身分や役職によって分けていくものです。時代劇は江戸時代以前が中心となりますが、いわゆる近代と前近代を分ける大きな基準の一つは「身分制」の社会か否かということです。そこで江戸時代についていえば、江戸時代の身分はよく「士農工商」と呼ばれますが、これはいわゆる職能による区分で、基本的な身分は、武士百姓町人の3つになります。そうしてみるとまず、「武家物」「御家物」というジャンルがあります。これまた河竹黙阿弥ですね。これに準じて「朝廷物」とか「公家物」みたいなジャンルがあってもいいですね。昔、NHKで本木雅弘さんが演じた「聖徳太子」とかです。これに対しては当然「庶民物」として「百姓物」「町人物」というジャンルがあってもよいですね。でも「町人物」はあっても「百姓物」はあまり聞かないような…。今は「百姓」そのものが差別用語になっていますからね。でも、藤沢周平の『義民が駆ける』などは、まさに「百姓物」なんですけれどね。藤沢は「町人物」や「剣豪物」は有名ですが、「百姓物」なんていいませんからね。

武士と百姓、町人は江戸時代の基本的な身分ですが、基本的な…といえば、基本ではない身分、これを研究の世界では「身分外身分」といったり「周縁身分」といったりします。ここでいえば「股旅物」なんかそうですね。股旅となるようなヤクザは、無宿者が多いのですが、無宿というのは、所在地の「人別帳」から除外された人たちのことですから、まさに身分外になってしまうわけです。その意味でいえば仕官していなくて藩に所属していない「浪人」も身分外になってしまいますか。ここでは「武家物」に入れてしまっていますが、「浪人物」というジャンルもありですね。これに類するものとして、「忍者物」とか「義賊物」とかも考えられます。

これらと少し意味を異にするのが「捕者物」です。ここには岡っ引きから町奉行まで、つまり武士といっても旗本クラスから関東取締出役のような幕府代官の手代、そして町人身分までいますから、役職としてまとめてしまったわけです。じゃあ江戸時代より前はどうするか…となりますが、これらに準じて身分や役職で考えて行くと案外分りやすいのではないでしょうか。

5番目はその他として、それ以外のものをまとめてしまおうと。でも、今のところ「怪談物」くらいしか思いつきませんでした。

ざっとこんな感じでジャンル分けしてみました。いかがでしょうか?もちろん、すべてのどれかにきちんと分けるわけではなくて、実際には重層的にならざるを得ないかなと思っています。英雄譚の武家物とか股旅物とか…。

逆に明治を舞台にした「るろうに剣心」や、大正を舞台にした「鬼滅の刃」は、時代は西南戦争以後でも「日本刀」という時代劇固有の武器を使っている「剣劇物」ですから、時代劇に入れてもいいのはないかと思っています。事ほど左様に曖昧なものでもあり、それだけ懐の広いものでもあるということですね。

新国劇_島田正吾の近藤勇と緒形拳の土方歳三

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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