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古文書を筆写する その1

ここでは江戸時代に作成された古文書ということにしましょう。古文書を書き写すことを筆写(ひっしゃ)もしくは筆耕(ひっこう)といいます。古文書はほとんど草書で書かれていますから、これを原稿用紙などに楷書体で書き替えるわけです。「筆写」というのですから、基本的には手で書き写すことになります。そこから活字にすることを「翻刻」(ほんこく)といいます。翻刻はもちろん、原稿用紙に書かれた筆写を印刷できるようにしていくわけですが、これを「組版」といいます。現在はほとんど電算写植ですが、コンピューターが一般的になって、DTPなどで手軽に本に出来るような印刷物が作れるようになる以前は、活字で組版を作成して印刷していました。私の自治体史歴でいえば、だいたい1990年代のはじめには活字から写植に置き換えられたでしょうか。正字で史料集を作ろうとすれば、活字でない文字はわざわざ作成してもらわなければなりませんでしたから大変でした。これでいかがでしょうと、FAXで送られてきた活字が潰れて見えないとか…(^^;)

活字というのは、印刷所ごとに文字の形が決まっていましたから、写植の時代になっても、わざわざ活字の文字を再現するために、コンピューター用のフォントを作成するところもありました。岩波新書などを印刷している精興社はそうですね。精興社とは幾つかの自治体でご一緒させていただきましたが、それはでは汎用のフォントを使っていたのに、ようやく当社のフォントができあがりました!などと嬉しそうにされていたのが忘れられません。精興社の活字は「精興社活字」といって柔らかみのある明朝体です。

なお、一般用フォントとしてシェアを伸ばしたのがリュウミンフォントでした。それほど評価の高いフォントではなかったのですが、フォントを買い取りにしましたから安くあげられます。安くといっても私らが購入するには高かったですけれどね。

話が横道にそれてしまいました。こちらは典型的な借用証文です。借用証文や質地証文、売渡証文などの定型的な古文書でまずは練習するというのは、史料管理学演習の紹介で書いたとおりです。

表題があって、本文があって、日付が書いてあって、差出人と請取人の表記がある典型的な「古文書」です。これを原稿用紙に筆写するとこうなります。

字が汚いのはご勘弁ください(^^;)原稿用紙は私特製の25文字×20行のものです。これでないと1行が入らないことが多いのです。ここでは本文は原文書(げんもんじょ)通りに改行しています。また、証文の「証」は、旧字の「證」を、「当」も「當」と旧字をそのまま書いています。また、「違」は異体字の「麦にしんにょう」です。

もう1点紹介しますね。こちらは「往来手形」です。

全国にある関所を通してもらうにはこの「往来手形」が必要です。タイトルは「往来一札之事」とあります。信州伊那郡西割樋口村の百姓忠右衛門の母と弟の留吉は、諸国の神社仏閣を拝礼する旅に出るために「往来手形」を発行してもらいました。こちらも筆写してみましょう。

こちらは名主文蔵さんの印鑑がありますから控ですね。文蔵さんのお宅に伝わった古文書です。ちなみに「写」と「控」の違いは、AからBに手紙を出すとして、Aの元に残されたものが「控」で、BがAの手紙を複写したものが「写」となります。もっとも、江戸時代の古文書ではかなり混在して使われているのが現状ですけれどね(^^;)

こちらも旧字や異体字は赤ペンで書いてきました。「國」「禮」「萬」「佛」「畄」などは第三水準の漢字が表示できる今のパソコン環境でも表記できますが、「州」や「弟」の異体字、ぎょうにんべんに「生」と書く「往」、民と心だけの「愍」そして「候」の異体字などは作字でもしないと表現できません。江戸時代の古文書を筆写するのなら、もう全て新字-常用漢字でいいんじゃないの?と考えるのは、そうした文字のいちいちをきちんと表現することができないんだということが大きいんですよね。そのように書いてあると判断することも実は難しい。いずれにしても表示できる文字だけ旧字や異体字で、できないものは新字で…では統一感がなさすぎます。

ついでに言うと、正字を「康熙字典」でというのも違和感があります。「康熙字典」には4画の「くさかんむり」や「髙」の文字はありません。また皇帝が字典を作成する場合は、自分の文字は変えるといわれています。康熙帝は「熙」の文字を1画イジっているそうです。森鴎外でしたか?「康熙字典」なんて、そんなものをあてにするんじゃなかったと言ったとか。とくに旧字体と言われるものは、それぞれの印刷所の活字によってデザインに差があったりします。「歴史」の「史」の右はらいに「ヒゲ」をつけたりとか。それほど左様に漢字の世界は難しい!!

また話がそれました。原稿用紙に筆写する場合は、1マス1マスに文字を書くだけではなく、行間も利用します。肩書はだいたい行間に書くことが多いですね。名前の上に書く場合もありますが、その際には文字が小さくなっていたりします。

これらの古文書はまだ簡単な方で、二行割りや行間を詰めるなど、正確を期すのならばいろんな方法を駆使して原稿化していきます。そしてその原稿を基本的になぞるような形で組版を作成していきます。その方法についてはまた次回!!

投稿者プロフィール

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!
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