古文書を筆写する その2 原稿用紙の書き方

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古文書を筆写する その2 原稿用紙の書き方

「古文書を筆写する その1」では、借用証文と往来手形を実際に原稿用紙に起こしてみました。詳細は下のURLをクリックしてご覧ください。

古文書を筆写する その1

ここでは主に筆写する際にどの漢字を使うかを中心にお話しをしました。漢字には新字、旧字、正字、異体字、当用漢字、常用漢字などさまざmな種類があります。その中でどれを使うかですが、江戸時代の文書を筆写する場合は基本的に新字または常用漢字で筆写する場合がほとんどです。かなり煩雑ですからね。

ただし、置き換え字は余り使いません。例えば今は「まわす」という漢字は「回す」と書きますが、本来「回」という文字は「1回」「2回」などの回数を数える漢字として使用されていました。「まわす」という漢字は本来ですと「廻す」になります。だからこれもほとんどの場合「回状」ではなくて「廻状」と表記しています。「廻」は「回」の旧字ではなくて、戦後に漢字を簡単にするために「置き換えられた」漢字なのです。こういう文字はたくさんあります。例えば「先鋭」はせ「尖鋭」、「開削」は「開鑿」、「供応」は「饗応」といった具合です。だから「回転」は旧来は「廻転」と書くのが普通でした。「かいてん寿司」には「廻転寿司」と表記されているところと「回転寿司」と表記されているところがありますよね。

ついでにこうした置き換え字には「耕耘機」→「耕運機」というように定着したものもありますが、「風光明美」→「風光明媚」と、残念ながら定着しなかったものもあります。

前置きがまた長くなりました。今回は、古文書を筆写する上でのレイアウトについてお話ししたいと思います。先に断っておきますが、これはあくまでも私が定式化したもので、人によって多少異なります。また、私自身は、ワープロソフトでもレイアウトできるようなものとして筆写するようにしています。

まずは借用証文からいってみましょう!

借用証文や質地証文、売渡証文などには基本的な古文書の要素が詰め込まれているといいましたが、それを定式化しながら筆写していきます。ここでは主な10項目をあげています。

まず①表題(タイトル)部分は、上から4マス分を空けて5マス目から書き始めます。②年月日は上から2マス分を空け絵文字目から、③請取人は3マス空けて4文字目から書き始めます。

続いて差出人ですが、④印鑑が捺してある場合は印の下1マスを空け、⑤印鑑がない場合は名前の下を2マス空けます。こうした地方(じかた)文書の場合、百姓名だけで名字がないことが多いので、⑥5文字均等で割り付けます。名前がいちばん長いのが例えば「太郎左衛門」など、5文字だからです。名字があったら、その人名だけ7文字均等とか8文字均等など他の人より上から書き始めることになります。また武士名など姓名が連名で書かれている場合は、いちばん長い姓名にあわせて均等割り付けとします。これは請取人の場合も同じです。「殿」「様」の上を5文字均等などとします。また、⑦差出人も請取人も肩書などは行間を使って小さく書きます。実際の古文書がそうなっていることを確かめて見ましょう。

いずれにしても⑧差出人の位置をどこから書き始めるかは、このルールを元に原文書を見ながらバランスがいいように筆写していくことになります。定式外の表記が出てきた場合は、原文書を参考にして判断していくことになります。

なお、⑨年月日については、連名の場合、第1人名の上に書くとバランスが良くなります。これもかなり後の方に書いてあればそちらを優先することになります。

最後に⑩「ニ、而、江、茂、者」などの、いわゆる「てのをは」と呼ばれる助詞は、右寄せで小さく書きます。助詞が漢字であればそのまま表記します。

次に往来手形で検討してみましょう。

ただし、

重複しているところは省きます。ここではまず⑪闕字(けつじ)、つまり尊敬の意味を表わすために1文字から数文字空白を設ける表現については1マス分空けます。また、同じ尊敬表現でも改行する表現、すなわり平出(へいしゅつ)の場合は2マス分、改行した上で他より1文字から数文字分頭を上にだしたもの=擡頭(たいとう)は3マス分空けます。

⑫年月日で十干十二支が書かれている場合は左右に分けて小さく書かれていたり、十二支だけの場合、小さく右寄せが書いたりします。これも原文書通りですね。

先ほど請取人は3マス空けて4マス目から書き始めるといいましたが、差出人と違って、請取人は事情により異なります。⑬相手の身分によってかなり高い所から書き始めたり、逆に御達書のような村への命令書などは、下の方に書かれる場合があります。それも適宜判断することになります。⑭あわせて請取人については行間を使ったり、あるいは行間を詰めたり(ベタ)するなど、判断を要する場合があります。ちょうど⑮往来手形を受ける部分は、どの位置から書き始めるか、行間に書くか、行間を詰めるかなど、適宜判断することになります。

つまり、こうしたレイアウトをどうするかについては、基本的な方法-定式を設定しながらも、なるべく原文書に即した形になるように、しかも美しく見えるようにレイアウトする必要があるということです。

では次回は、これをワープロソフトでどのように表現するかについて考えていきましょう!

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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