古文書を筆写する その3 ワープロソフトの使い方

Let's古文書
古文書を筆写する その3 ワープロソフトの使い方

流れる季節の真ん中で~ふと日の長さを感じます~♪

今日は3月9日ですね。レミオロメンの歌をしみじみと思い出します。

さて、昨日は江戸時代の古文書を原稿用紙に筆写するための基本的な方法について紹介しました。もちろん、初学の段階では徹底的に原稿用紙に起こした方が良いと思います。また、実際の古文書はレイアウトが複雑なものが多いので、原稿用紙の方が便利だとも言えます。ただ、さすがに今はコンピュータの時代です。ワープロソフトを使って入力した方が早くてきれいに仕上がるというのも道理です。ただし、前回紹介したような定式化した表示方法には簡単に実現できるものもあれば、かなりテクニックを要するものもあります。何より多様な古文書をどのようにワープロソフトで表現するか、というのは本当に難しい問題です。できればプロに組版を頼んだ方がよいのは確かです。そうでなければ古文書の機微を表現することができないですし、何より美しく組まなければ活字化の意味がありません。といってもワープロソフト自体も万能ではありません。もしかしたら、AdobeのインデザインのようなDTPソフトの方がよいかも知れません。数式がある文書にはよくLatexが使われるということも聞きます。

ただ、そこで問題なのは、入力した古文書をそのまま論文などに利用するにはやはりワープロソフトの方がよいということです。ライターなどのプロはよく秀丸などのエディターを使われているそうですが、エディターでは古文書は表現できません。そこでここでの課題は、ワープロソフトを使ってなるべくきれいな「組版」になるように古文書を入力するテクニックを考えるということです。それもできれば史料集が作れるくらいに。

ということで、これは私が自治体史編纂でワープロ専用機種からコンピュータのワープロソフトに切り替えた頃(1980年代)からの方法をまとめたものです。もちろん、そのいったんに過ぎませんが…。

なお、ワープロソフトは「一太郎」を使います。最新のバージョンは一太郎2021です。Wordでは恐らくここまでは組めない。組めても手数がかかると思います。

それでは早速やってみましょう。まずは復習として、借用証文と往来手形のコピーと筆写原稿を並べてみます。

借用証文
借用証文原稿
往来手形
往来手形原稿

はい、これが前回一応、お手本として原稿用紙に起こしたものにいろいろと注記つけたものです。

これをワープロで打つのですが、ワープロでは漢字は新字に統一します。また、本文を原稿通りに改行するのはやめて続けて書き、読点を打っています。

ワープロ筆写原稿

借用証文原稿と往来手形原稿につけた丸数字はここにも入れています。①から⑤までの上から○文字空ける、下を○文字空けるというのはそんなに難しいことではないかも知れません。というよりもこれくらいの古文書ではさして難しいテクニックは必要ないですね。

さて、ワープロで筆写する場合、何より気をつけなければならないのは「行間」の処理です。文字数は20字だろうと40字だろうとそれによって差出人の位置などが変わるだけですが、「行間」はそうはいきません。

「行間処理」のポイントは、文字と同じ大きさの分だけ空けてくということです。文字が9ポイントであれば9ポイント分、10ポイントであれば10ポイント分、パーセントでいえば100%を指定します。なぜかというとこの文字と行間が同じということが古文書筆写における基本となるからです。というよりも「組版」の基本であったということです。文字を打つために文字数についてはそう大きな問題はありませんが、古文書を筆写する上で必要となるのはどのように行間を処理するかということになるのです。

例えば肩書などは原稿用紙では行間に入れて置きましたが、これをワープロ原稿で表現する場合は、まず9ポイントの活字なら7ポイント、10ポイントなら8ポイントと文字の大きさを落として、なおかつ左側に寄せます。よく見てください。借用証文では「樋口村」と「借用主」の間は少し空いているのに対して、「借用主」と「岡右衛門」の間はぴったりくっついていることがおわかりいただけるかと思います。これは「同国同所」と「文蔵」との間の「名主」もそうですし、「母」と「留蔵」の間の「弟」もそうです。

それでは行間の文字はどれくらい右側と空ければよいか、どれくらいの大きさにするかは、結局、そのことで行が大きくなったり小さくなったりしないように計算することになります。サンプルのワープロ筆写原稿は10.5ポイントで作成していますので、それに合わせて計算しています。万事が万事こんな感じです。

また、名前は全て5文字の均等割付にしています。よく史料集などで文字の長さの分だけそのまま書いてある場合がありますが、あれは美しくない。だって、原文書が揃えてあるのですからね。

差出人で重要なことは、この人名と肩書の関係から書き出しの位置を決めるということです。の問題ですね。これは原文書をみてこれくらいかなぁと決めることになります。名前の位置は下から7文字目からはじめるということは決まっていますから。これは往来手形のにもつながる問題ですね。

それからの請取人は肩書などの行間処理を転用していますが、そもそもこの行間をそのままにしておくか、密着させるか、多少空けるかなども工夫が要るところです。密着させることを「ベタ」といい、それから半分空けることを「2分空き」4分の1空けることを「4分空き」といいます。これらを状況に応じて使い分けます。

さらにでは十干を右寄せで小さく、十二支を左寄せで小さくしています。これも原文書通りですが、これはあんまりやると名前の位置が揃わなくなりますので、実は私自身はあまりやりません。ただ、連名が揃っているのは「タブ」の機能を使っているからです。

こうした処理をするのはなかなかたいへんじゃないの?と思われるかも知れません。でも、一太郎にはキーボードマクロという機能があって、つまりキーボードでの操作手順を実際に操作することでワープロソフトに覚えさせるわけです。しかも一太郎では、インデントとか文字を大きくするとか小さくするとかの標準でついている機能の他に、こうしたマクロも自由にキーボードに割り付けることができます。だから、「借用主」は前の行の3文字を8ポイントにして左側に密着させ、右側を○.○ミリ空けろという命令を「Ctrl(コントロール)キー」と「Altキー」を同時に押しながらと数字の「3」を押すことで自動化させています。2文字であれば「Ctrl+Alt」と「2」です。また、名前の5文字均等割付は、2文字であれば「Ctrl」を押ながら数字の「2」、3文字であれば「Ctrl+3」、4文字であれば「Ctrl+4」というようにキーに割り付けてあります。返り点も同じ方法で一気に書き入れることができます。

文章を打つためにはマウスなどは使わないで、なるべくキーボードで済ませるようにした方が効率的ですよね。ですからキーボードに動作を割り付ける機能はもう欠かせません。そうするとCtrlキーを使う頻度が高くなりますから、私のキーボードでは「Ctrl」キーと「Caps Look」キーを入れ替えてあります。まぁ~これらを含めて一太郎が手放せないんですね…。

最後に助詞は右寄せで小さく書いていますが、これは「外字」を作成して使っています。先の方法でキーボードマクロを使って入力する方法もありますが、何せ頻度が高いものですから、外字にした方が入力が早いのです。合字の「より」や畳字なども外字で作成しています。外字の「より」は最近は標準で搭載されるようになりましたね。

ただ、外字を作成すると当然ながら外字のフォントが入っていないと他のコンピュータでは表示も印刷もされません。ですから、もう小さくすることなどは考えずに他の文字と同じ大きさにしたり、あるいはそもそもが助詞なのですから、「て、ニ、は、も、え(へ)」など平仮名や片仮名にしてもいいのではないかと思っています。実際、ただいま編集中の「吉岡由緒書」は外字の使用は止めて、助詞は全て仮名にしています。合字の「より」も「より」と平仮名で打ち込んでいます。

こうしたテクニックを駆使しながらこれまで『史料叢書 幕末風聞集』と『明治期の村落小学校関係資料集-栃木県安蘇郡閑馬小学校-』と2つの史料集を刊行してきました。『幕末風聞集』については在庫が切れてしまいましたので、今度再刊する予定です。これは『幕末風聞集』のサンプルです。

すべて一太郎で組んだものですが、結構組めるもんでしょ~。もっと複雑な箇所もあります。2段組の場合は最初の写真にあるように、上の行と下の行が真っ直ぐになることが大事なんです。そのために計算が必要なんですね。そこで最後にこの『幕末風聞集』を刊行した際の筆写要項をPDFファイルにしましたので、興味のある方はダウンロードして見てみてください。

最後の最後に!みなさん『吉岡家代々由緒書』ならびに『増補改訂版 幕末風聞集』を刊行したら、ぜひ買ってくださいね(^^)/

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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