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《幕末編_01》元治元年八月 池田屋事件の働きにより新撰組褒賞につき幕府老中宛松平容保礼状

今回のlet’s古文書は特別編です!先日の歴史記事キュレーションで、蛤御門の変の際の新撰組に関する日記が見つかったという記事を紹介した際に、関係史料を掲載しましたので、今回はこれについて読んでみましょう。国立公文書館内閣文庫に保管されている史料です。

《特別編》古文書

《特別編》筆耕文

【書き下し文】
一筆啓上致し候。公方様益御機嫌能く御座なされ、恐悦奉り候。然れば六月六日浮浪の徒洛内え聚屯容易ならざる企てこれ有り候節、新撰組の者共召し捕り方抜群相働き鎮静に及び候段、常々申し付け方行き届き、兼々忠勇義烈の志厚く  帝都御警衛手厚に心得、一際奮発相働き候に付き、新身料・別段金子それぞれ下し置かれ、猶この上いよいよ忠勤相励み候様申し渡すべき旨仰せ出だ有り難き仕合せ存じ奉り候。右御礼申し上ぐべきため飛札を呈し候。恐惶謹言。

 

【解説】
池田屋事件は、元治元年6月5日に長州藩・土佐藩・熊本藩らの尊王攘夷派の志士約20名が、京都三条小橋の旅宿池田屋に集結していたところを、近藤勇、土方歳三ら新撰組と会津藩兵に襲撃され、宮部鼎蔵(熊本藩)や吉田稔麿(長州藩)ら多くの死傷者を出した事件で、蛤御門の変(禁門の変)のきっかけになったとされています。

この書状は、新撰組「預り」であった京都守護職の会津藩主松平容保が、出羽山形藩主水野忠精ら幕府老中4名に宛てた書簡です。本紙ではなく写ですね。国立公文書館内閣文庫に保管されています。書簡の中で、「六月六日」になっているのは、誤記ではなくて、事件自体が5日の深夜ですから、明けての日付を書いたものと思われます。「浮浪の徒洛内え聚屯容易ならざる企てこれ有り候」を「新撰組の者共召し捕り方抜群相働き鎮静に及」んだと述べ、さらに「常々申し付け方行き届き、兼々忠勇義烈の志厚く  帝都御警衛手厚に心得、一際奮発相働」いたなど、容保は最上級の褒め方をしていますね。そこで幕府から「新身料(あらみりょう)」別段金をいただいたことに対し、御礼のために出した書簡というわけです。「新身」とは新しい刀のことですこれらの報奨金についてはすでに報告されていますが、内閣文庫にもやはり写が残っています。まとめると下の表のようになります。


報奨金は容保から下されたとされることもありますが、実際は幕府から出されていたのです。ちなみこの際の報奨金は、松平容保の家臣と、京都所司代松平越中守定敬(伊勢桑名藩主)の家臣にも出されていて、この際の協議に関する書簡がやはり内閣文庫に残っています。容保と定敬(さだあき)は兄弟で、容保が尾張藩連枝美濃高須藩主松平義建の七男で、定敬が八男です。いわゆる「高須四兄弟」ですね。この当時の京都における権力構造を、禁裏守衛総督の一橋慶喜を加えて「一会桑政権」もしくは「一会桑体制」などと呼んでいます。家近良樹先生が提起された概念ですね。これも複雑ですから、下に図を書いておきます。こうなると、家定の将軍継嗣問題で、尾張藩が対象にならなかった理由もわかりますね。


さて、新撰組に対する新身料はすべて10両で、別段金が「隊長」の近藤勇が20両、「上々等」の土方歳三が13両、「上等」の沖田総司・長倉新八・藤堂兵助ら6名が10両、「中等」の井上源三郎・原田左之助・斎藤一ら11名が7両、「下等」の松原忠司・伊木八郎ら12名が5両となっていて、5段階に分かれていたことがわかります。総計が31名分で540両です。近藤が30両、土方が23両報奨金をいただいたというのは、具体的には「新身料」と「別段金」を合計した額だったのです。この他に、安藤早太郎・奥沢栄助・新田革左衛門の3名が死去しています。この3名にも容保から20両が下されたとされていますが、これもどうやら幕府から下されたようです。

池田屋事件にかかわった新撰組隊員の人数には諸説がありますが、少なくともここで褒賞された31名+3名が、幕府および容保から公的に認められた襲撃隊員たちであったということ、史料的にいえばそれが重要なのですね。

それにしても京都を「帝都」と表現しているのは注目されますね。他にも事例はあるのでしょうが、私は初めて見ました。

なお、「花押」のところを筆耕文で「花押影(かおうえい)」としているのは、これが写だからです。古文書学的に言えば、基本的に文書を作成した側が手元に書き写したものを置いておくのが「控」で、受け取った側が書き写しておくのを「写」と言います。んが、江戸時代の文書では、ごっちゃになっている例も多いのです。ま、それが近世文書でもあります。それだけたくさんの人が文字を書けるようになったと言うことですね。

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投稿者プロフィール

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
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