津軽三味線の「いとみち」

今日のつぶやき
津軽三味線の「いとみち」

「いとみち」は「糸道」と書くそうで、三味線を弾くときに爪にできる弦の後のことだそうです。この「いとみち」をタイトルにした映画が公開されました。三味線は三味線でも津軽三味線です。昨日、グランドシネマサンシャイン池袋で、「いとみち」の舞台挨拶があるというので、観に行ってきました。お目当ては豊川悦司さんです。昨年横浜市歴史博物館で開催した緒形拳さんの展覧会で豊川さんにトークショーをお願いして以来懇意にさせていただいているファンの方から誘っていただきました。

「いとみち」は津軽三味線の使い手なんだけれど、津軽弁がひどく、人見知りで引っ込み思案で友達もいない高校生の「いと」が、青森にあるメイド喫茶で働き初めて起こる騒動の中で成長していく姿を、家族や同僚や新しい友人たちとの絡みの中で描いていく映画です。母方のおばあちゃんが津軽三味線の名手で、名前の「いと」はもちろん「糸道」から名づけられたものですが、母親は幼い頃になくなっています。東京生まれで青森に来たという父親役の豊川さんは、津軽地方の言葉や口承などを集める民俗学者の大学教授という設定で、何となく親近感が湧きます(^^)

私は津軽三味線が大好きです。吉田兄弟のコンサートか行ってみたいと思っていました。結構、激しいリズムなのですが、その激しさの中に何とも言えない哀愁というか、悲しみみたいなものを感じてしまうのです。映画で津軽の飢饉について授業を受けるシーンがありました。「山背(やませ)」が吹き、雪が降り、厳しい寒さにさらされる東北地方は、ひとたび冷夏多雨となれば飢饉が避けられません。津軽三味線にはそんな中で強く生きていこうとする人々の生き様が込められているように思うのです。

それで映画に戻りますが、主演の駒井蓮さんがとにかくよかったですね。青森県の出身だそうですから、方言はもちろんのこと、とにかくその時々の表情、目の動きで演技できる役者さんですね。駒井さんはなんと双子何だかと!

豊川さんの父親はまったく安定感のある父親でした。何度も言いますが、民俗学者という設定に親近感が湧いて、書棚にある『青森県史』などの書籍に思わず笑ってしまいました。そしておばあさん役の西川洋子さんがよかったですね。三味線の腕もさることながら、沖縄のおばぁに匹敵する存在感でした。

メイド喫茶の同僚でシングルマザー役の黒川芽以さん、漫画家をめざす横田真悠さん、店長の中島歩さん、オーナーの古坂大魔王さん等々個性豊かで実にはまっていましたね。そして高校の友人役のりんご娘のジョナゴールドさん!実にチャーミングな方で、舞台挨拶でのお話もしっかりしていましたが、標準語でお話をされていてもイントネーションが津軽弁で、それがなんとも心地よかったです。私もそうなのですが、いくら言葉は標準語でもイントネーションだけは隠せないんですよね。

それにしても9か月で津軽三味線をマスターしたという駒井さんの努力には本当には本当に感心します。おばあちゃんとの練習のシーンは、豊川さんも仰っていましたが、この音の中にいることがすべてなんだなと思わせるくらい心地よいものでした。もう一つ、破れた「いと」の三味線の革を張り替えるシーンがあります。時間としては短いものの、こんなにたいへんなのかと思われるくらい圧巻の仕事で、これがあるとないのとでは三味線の捉え方がぜんぜん違います。

舞台挨拶は撮影とSNSなどへのアップが許可されましたので、私もここでアップしておきますね。左から中島歩さん、横田真悠さん、古坂大魔王、駒井蓮さん、豊川悦司さん、ジョナゴールドさん、そして監督の橫浜聡子さんです。

橫浜さんはさすがに地元出身だけに見てみらいたい風景にも長じていらっしゃいますね。リンゴがたわわに実った津軽の風景はとにかく美しかったですね。橫浜さんも仰っていましたが、こうした地方の風景はいろいろと差があっても懐かしいものです。福岡生まれの私にはとくに東北地方への憧れみたいなものがあって、よく行きます。とにかく空が広いのですね。それは私の故郷も同じです。早く帰りたくなってしまう映画でもありました。

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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