仇ゆめの…。

今日のつぶやき
仇ゆめの…。

東京での新型コロナウィルス感染者がついに5000人を超え、神奈川も2000人超え、さらに全国でも1万5000人超えを続けながら4日連続で記録を更新するなど感染増加が止まりませんね。また、一昨日は小田急線で傷害事件と物騒な事件まで起きるなど、何だか周辺がざわついています。そして東京オリンピックも熱狂と物議の中、今日で終わりですね。

そんな中ではありますが、昨日、7日には久しぶりに歌舞伎座の八月花形歌舞伎を観に行ってきました。通常、歌舞伎は2部構成なのですが、例年この時期は納涼歌舞伎などの怪談物をやって、若手中心に3部構成ととして、その分観劇料が安くなります。納涼歌舞伎はないですが、今回も3部構成でした。観劇料が安くなると言っても1等席で1万5000円はしますが…(^^;)

今回は第2部の「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち) 豊志賀の死」と「仇ゆめ」を観に行ってきました。もちろん、お目当ては北條秀司作「仇ゆめ」ですが、「豊志賀の死」は三遊亭円朝の口演を芝居にした怪談物でなかなか面白かったですよ。さすが七之助さんです。

仇ゆめは、もともと北條先生が西川鯉三郎に宛てて書かれた舞踊劇です。舞台は京都の遊郭島原。島原の遊女深雪太夫に恋をした化野(あだしの)の狸が、踊りのお師匠さんに化けて、深雪太夫に思いを告げます。もともと師匠を慕っていた深雪太夫も喜んでこれを受け入れるのですが、その後、本物の師匠が現れて、狸だと言うことがばれます。そこで一計を案じた遊郭の亭主が、若い衆を率いて狸をだまし討ちにします。死の間際、深雪太夫に会いに来た狸は、太夫の腕の中で死んでいきます。お囃子を両脇に並べ、賑やかでおもしろうて、やがて悲しき物語です。狸が息を息を引き取る際にかかるお謡の「仇ゆめの~仇ゆめの~」が深く印象に残ります。今回も狸を中村勘九郎さん、深雪太夫を弟の七之助さんが演じられました。

もともとはお二人のお父さま、18代目中村勘三郎さんが得意とされていた演目で、とにかく踊りがうまくなければできません。また、狸の滑稽さと最後の儚さをうまく演じ分けられなければなりませんので、なかなか難しい演目かと思います。勘三郎さんが亡くなった際にもそんな話をブログで書きました(2012年12月16日http://www.ihmlab.net/wp/?p=1964)。この時、勘三郎さんは57歳だったのですね。とっくにその年を追い越してしまいました。確か勘三郎さんの仇ゆめは2回観ています。そして勘九郎・七之助兄弟の仇ゆめも今回が2回目です。前回は2015年に次女と文京シビックホールで観たのでした。

たぶん、仇ゆめを歌舞伎座で観るのは初めてかと思います。華やかな舞台とお囃子がまずは目と耳を引きます。ただ、歌舞伎座ないでは距離を開けるのはもちろんのこと、会話をすることも厳禁ですので、大向うがかかりません。ここで「いよっ、中村屋」だろうと思うのですが、やはり大向うがかからないのは寂しいですね。その分、拍手の数が多くて、拍手の音も大きかったように思います。満席にはもちろん程遠いですが、こんな状況下で感激に訪れた客たちの、それがせめてもの心意気だと思います。久しぶりの親子4人で、行って観て帰るだけだったのもまた残念でしたが、それでも台風にぶつかることもなく、元気に顔を合せることができたのは嬉しいことでしたね。

自由におおっぴらに演劇やコンサートが観られるようになる日が一日も早く訪れることを祈って止みません。

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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