蛤御門の変を訪ねて…その3 仙洞御所

今日のつぶやき
蛤御門の変を訪ねて…その3 仙洞御所

仙洞御所は、上皇や法皇のための御所で、院の御所ともいいます。現在の仙洞御所は、寛永7年(1630)に後水尾天皇のために、茶人や作庭でも有名な小堀遠州を奉行として造営されたもので、安政元年(1854)に焼失した後は、上皇が存在していなかったために再建されなかったそうです。「吉岡由緒書」には仙洞御所の北側に「女院御所」と書かれていますが、これは太皇太后(たいこうたいごう)まはた皇太后(こうたいごう)のための御座所をいいます。後水尾天皇の中宮和子のために幕府によって造営され、代々女院の御所となっていました。和子は2代将軍秀忠の女(むすめ)で、院号を東福門院(とうふくもんいん)といいます。これによって秀忠は天皇家の外戚になったわけですね。大宮御所も数度の火災に遭っていて、慶応3年(1867)に孝明天皇照皇太后のために造営して、大宮御所」と呼ばれるようになったそうです。この時、仙洞御所は存在していませんので、大宮御所と一体化されたとのことです。どうもそうです…が多いのですが、辞書によって多少内容が違うので、とりあえず、このようにまとめておきます。

少なくとも、蛤御門の変が起きた元治元年(1864)には仙洞御所も女院御所もなく、庭園だけが残っていたことになります。なお、大宮御所が再建される際には、幕府によって国役金が課せられています。国役金は、幕府領や大名領、旗本領の区別をしないで、例えば石高100石につき○両というように、国を単位として徴収する税をいいます。朝鮮通信使や琉球使節の来朝、あるいは河川の土手工事などの際に課せられました。まさに領主を越えた行事や事業のために課せられたもので、学界では、この時点で国役金を賦課できたことの意義について議論になっています。

前置きが長くなりました。仙洞御所に行ってみると、当日の受付をやっていました。何でも、事前に宮内庁ないしは乾門のところに宮内庁の出張所があるので、ここで予約を取るのだそうです。ホームページで仙洞御所について調べてはいましたが、それは書いてなかったような…。これから行かれる方は注意してくださいね。

ただし、当日の受付をやっていましたので、入れることは入れるのですが、受付は11時からで入場できるのは13時30分からとのこと。早く行って廻ろうという思惑はものの見事に外れました。でも、せっかく来たのですから、予約を入れて、御所の方を先に見学した次第です。

京都迎賓館ができるまでは皇室の宿泊所になっていたそうで、こちらは車寄せです。それにしても外人さんが多くて、見学者の7割近くは外国の方だったようです。やっぱり興味があるんだなと思う反面、日本人の見学者が少ないことがちょっと寂しくもありました。

仙洞御所見学の1番の目的は、庭園、とくに「州浜(すはま)」の石をこの目で確かめてみることでした。州浜には丸い石が約100mに渡って敷き詰めてあります。

州浜の石は通称「一升石(いっしょういし)」と呼ばれています。江戸時代、というか歴史上最後の上皇になったのは光格天皇(1771~1840)でした。光格天皇といえば、松平定信による寛政の改革の際に、天皇ではなかった父に尊号(太上天皇号)を贈る一件、いわゆる尊号事件で有名です。そこで朝廷と幕府との関係はギクシャクしたのですが、この「一升石」による州浜は、この光格天皇の時に造られたもので、この時に京都所司代として州浜に「一升石」を敷き詰めたのが、小田原藩主であった大久保忠真(おおくぼただざね)です。

「一升石」の石は主に湯河原の海岸から調達されたといわれています。石1個と米1升を交換したことから「一升石」と呼ばれるようになったとのことです。州浜にある石は、11万1,000個。石高に換算すると1,110石、4斗の俵にして2,775俵。昔はとうていそれは無理な話ではないか…、と思っていたのですが、この頃は元禄大地震と宝永富士山噴火からの復旧も進んでいて、年貢もだいぶ回復してきたところだったので、可能だったかも…と最近は思っています。京都所司代時代の忠真は、光格天皇の譲位を立派に執り行い、光格天皇はもとより、公家の評判もよく、朝廷と幕府の融和に尽くしたといわれています。また、曙を歌った和歌が評判になって、「曙の侍従」とも呼ばれていました。この「一升石」も一つ一つ真綿に来るんで、俵に入れて運んだとのこと。確かに州浜の石は優雅に丸く、大きさが揃っていて見事でした。

そんな一升石の州浜には、サギがよく似合う…と、思いませんか?

 

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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