何が学びを妨げるのか その6 18歳人口・大学在学者数・大学進学率

今日のつぶやき
何が学びを妨げるのか その6 18歳人口・大学在学者数・大学進学率

それではこれまでのさまざまなデータを突き合わせてみることにしましょう。正確にいえば、さまざまなグラフを一つにまとめてみることにします。ただし、大学の数と大学進学率という2つの折れ線を18歳人口や在学者数の棒グラフと一緒にすることはできませんので(私ができないだけかも知れませんが…)、ここでは18歳人口と在学者数を棒グラフとし、大学進学率を折れ線グラフとする組み合わせグラフを作成します。もちろん、Excelで作成したものです。

オレンジの棒グラフが18歳人口で、青色の棒グラフが大学在学者の数です。在学者は最低でも?!4学年いるわけですから、数が多いのは当たり前です。その点を踏まえた上でみてみると、1973年までは、18歳の単独人口の数が大学在学者数より多くなっています。1955年から第1次ベビーブームの1965年代まではその差は大きいですね。でも、先にも書きましたように、第1次ベビーブームのころから急激に大学の数も進学率も増えていきますから、当然、在学者数の急増していきます。また、これも先述したように1970年代から1980年代の半ばまでは18歳人口も進学率も在学者数もほぼ横ばいで均衡を保っているように見えます。ところが、進学率は1990年代のはじめまで停滞したままなのですが、18歳人口は第2次ベビーブームに向けて増えていき、それに応じて在学者数も増えていきます。

乖離現象が起きてくるのはその後です。1992年の第2次ベビーブーム最終年を境に18歳人口は急減していくのに対して、進学率と在学者数は急伸していきます。それが大学数の増加にあったことはこれも先に書いたとおりです。その結果が現在の進学率50%強という結果になっています。そしてこうした傾向の中でも大学数が増えたのは、1991年の大学設置基準の大綱化に大きな理由があったのも先に述べたとおりです。いわば国策だったわけですね。

ゆとり教育が学力低下の原因とはよく言われますが、それ以前にこうした構造的な問題があったというべきなのかも知れません。いや、そうなのでしょう。18歳人口の減少の中での進学率50%を超えるという問題を1990年代やそれ以前にはどのように考えていたのでしょうか。いやすでに1990年頃には将来の18歳人口の減少は懸念されていました。ですが、ゴールデンセブンと呼ばれる、第2次ベビーブームを頂点とした大学受験者数の増加期に惑わされたいなかったか?そこから大学を増やすことが、大学間の競争よりも、教育や研究の低下を招くことは想像できなかったのか?研究よりも大学は教育を!と声高に叫ばれています。どっちが重要というより、本来は両立を目指すものであったのではないでしょうか?両立できないような体制を創りだしたのは誰なのでしょうか?ちゃんと顧みる必要があるのではないでしょうか?そこにこそ本当は歴史の意義があるはずなのですが…。

こうしてみますと現在は確かに多様な社会で、多様な可能性を認めた社会です。でも、猫も杓子も大学に行くこと、そして会社に入ることがあまりにも一般的になりすぎて、そしてほとんどは推薦で大学に進学できるようになって、社会の多様性は却って狭まってはいないでしょうか?すべては個人の自由という美名の陰で、社会の均質性、斉一性が進んでいるのではないでしょうか?本来、価値観はもちろん、職業も多様であって、それぞれをお互いがリスペクトしていく社会が豊かな社会なのではないでしょうか?

学ばない学生、学べない学生が増えたのは結果論ではなくて、歴史的な必然ではないでしょうか?そしてそれに対して大学はどれだけ応えきることができるでしょうか?学生の質の低下、学力の質の低下は、教員の質の低下と同義であることを私たちはもっと自覚しなければならないのではないでしょうか?政財界はひたすら「使える学生」の人材育成を唱えています。大学っていった何なのでしょうか?堀江貴文さんが、大学はオワコンだとことさらいわれるのもわかる気がします。

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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