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五月晴れと五月雨

昨日梅雨入りしたと思ったら、今日はまた暑くなって、天晴れな五月晴れとなりました。ん?五月晴れ?と、『日本国語大辞典』によれば、1番目の意味として「五月雨の晴れ間。梅雨のからっとした晴れ間。つゆばれ。」とあって、2番目の意味に「五月のさわやかに晴れわたった天気。」とあります。今では2番目の意味、とくに5月の連休頃の晴れわたった天気を五月晴れと言うのが、一般的ですね。でも、太陽暦と違って太陰暦では、5月は今の6月にあたりますから、梅雨のまっただ中。本来はその合間の晴の日のことを言うのですね。

ですから、五月雨についても今では、「継続しないで、くり返す行動などについていう。」(『日本国語大辞典』)あるいは、途切れがちにくり返すこと。」(『広辞苑』)といった意味が一般的ですが、これも本来は、陰暦5月に降る長雨、つまり梅雨の雨のことを言うのですね。松尾芭蕉は「五月雨を 集めてはやし 最上川」と詠みましたが、パラパラと降る雨では最上川が早くなる訳ありませんよね(^_-)

戦国時代から江戸時代初期にかけての芸術家に本阿弥光悦(1558~1637)という人物がいます。国宝の「舟橋蒔絵硯箱」や、同じく国宝の茶碗「銘:不二山」などで知られる、本阿弥家はもともとは刀剣鑑定の家柄だったのですが、それこそ光悦流の文字から作陶、茶の湯等々、本当に多彩です。徳川家康から京都の鷹峯に土地を与えられ、ひとつの芸術村をつくったこともつとに有名です。今でも鷹峯は地名で残っていますし、光悦寺というお寺もありますね。

光悦作の茶杓に「銘:五月雨」というのがあって、これには茶杓入れの箱書に「五月雨:星ひとつ みつけたる夜の うれしさは 月にもまされる さみたれのそら」という歌が見事な字で書かれています。この茶杓、もととなる竹に小さな穴が空いていたのですが、光悦は、それを星に見立てて、「五月雨」つまり梅雨のうっとうしい雨が降り続く日々の中で、ちょっとだけ夜空の雲が晴れて見つけた星は、月夜の輝きよりも優れてみえる…嬉しい…と詠んでいるのですね。これも五月雨=梅雨の雨だからこその歌です。根津美術館で初めて本物を見たときには感激しました!

紫陽花も今を盛りと咲き誇っています。でも、まだ梅雨は始まったばかりです。せめて「星ひとつ」愛でる心の余裕くらいは持っていたいものです。

 

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投稿者プロフィール

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!
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