【徒然】君にちかふ… 吉井勇


5月になりました。GWも早、後半です。もうひとがんばりして、少し鋭気を養いたいものです。

以前、このblogで劇作家北條秀司関係資料の中にある書画資料として、西條八十の手による詩の掛け軸について紹介しました。今回はもう一人、吉井勇という歌人の掛け軸について紹介しましょう。と、その前にご報告です。

新装なった歌舞伎座の8月こけら落とし公演の第3部として、北條秀司作「江戸みやげ 狐狸狐狸ばなし」が上演されることになりました!「狐狸狐狸ばなし」が亡き18代目中村勘九郎さんの当たり狂言であったことは先に紹介しましたが、今回は主役の伊之助を中村扇雀さん、おきわを勘三郎さんのご子息の七之助さん、又市を同じく勘九郎さんが演じることになっています。先にも書きましたように、歌舞伎が初めての方でも気軽に楽しめる演目ですので、ぜひ多くの人に観ていただきたいですね。重善という生臭坊主の役として中村橋之助さんも登場されますが、さて、どれくらいの仕上がりか、勘三郎さんの伊之助がよかっただけに恐る恐る?!楽しみです。新しい歌舞伎座ができる前には市川団十郎さんもお亡くなりになりましたし、まさ飛車角抜きといった状況ですが、だからこそ、若手の皆さんに頑張って欲しいものです。

さて、歌人 吉井勇(1886〜1960)ですが、西條八十と同時代の人で、その情熱的で陶酔的、耽美的な作風でつとに有名ですね。北原白秋、木下杢太郎などとともに、文芸雑誌『スバル』に集った、いわゆる「耽美派」の歌人として活躍した人です。いつだったか、北條邸の床の間にこんな掛け軸がかけてありました。

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君にちかふ阿蘇の煙のたゆるとも 万葉集の歌 ほろふとも 勇

初めて目にした時、本当に衝撃的でした。「君に誓う」という出だしもさることながら、この歌にはどこにも「好きです」とか、「愛しています」とか、そういう類の言葉はまったく出てこないのに、溢れんばかりの想いが心に染み入ります。静かに優しく、そして激しく…。と、そんな表現自体が下世話な気がしますが、それにしてもその想いを伝えるのに、「阿蘇の煙」と「万葉集の歌」という、選ばれた言葉というか、題材というか、とにかくその対比が見事です。激しく煙を吐く阿蘇の雄大な景色に込められた想いと、万葉集という日本最古の歌集に込められた想い…。まさに両極の動と静ですか。ちょっと適当な言葉が見当たりませんが、いずれにしても私らのような凡人ではとてもできない表現です。一目して、この歌に、この書にいっぺんに引き込まれました。

この歌自体は、明治43年(1910)に刊行された吉井の第1歌集である『酒ほがひ』に収録された短歌で、「後の恋」と題する連作の一首だそうです。そしてこの書は、北條先生が箱根登山鉄道に勤務されていた頃に、箱根強羅にあった「一福旅館」という登山鉄道経営の旅館で直接本人より贈られたとのことでした。北條先生は、吉井の歌の大ファンで、幾度となく書を求めたそうで、北條秀司関係資料の中には他にも吉井の手による短冊や色紙などが多数残されています。ちなみに吉井の書は細く美しいことから仮名書きの手本としても使われているそうです。それだけに吉井は大書した書を残すことはほとんどないといわれていますが、この書は宴席で酔余の戯れに書いたもので、その墨痕淋漓(ぼっこんりんり)たる筆勢がたいへん珍しくて貴重だといわれています。後日、吉井は大書してしまったことが恥ずかしくなったのか、書の返却を求めたそうですが、北條先生は頑としてそれに応じなかったとのことです。それはそうですよね。絶対返したくないですよね。また、そのおかげで今に北條家に伝わったのでした。まさに珠玉の一品です。

吉井勇の歌については他にも大好きな書がありますので、また改めて紹介したいと思います。

 

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【徒然】君にちかふ… 吉井勇 への3件のフィードバック

  1. 五月うさぎ のコメント:

    初めてコメントいたします。
    吉井勇の歌という事で。
    この歌、私もとてもとても大好きであります。
    余りに好きすぎて、もうどう表現して良いのか分かりません。言葉が出てこないです。
    ただただ、胸だけが締め付けられます・・・・。
    次回は是非あの書を・・・・!
    更新を楽しみにしております。

    • 馬場弘臣 のプロフィール写真 馬場弘臣 のコメント:

      五月うさぎ様

      初めての!ご連絡ありがとうございます。
      いいですよね、吉井勇の歌は!
      また、ご期待に添えるように紹介していきたいと思います。乞うご期待!!

  2. ピンバック: 【徒然】鎌倉の 海のことくに… 吉井勇 | Professor's Tweet.NET

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