電子書籍時代の史料翻刻(11) 古文書(史料)筆写要項


先週の月曜日から本格的に職場復帰したと思ったら、思いのほか疲れてしまって、筆が止まってしまいました。寄る年波もあるかと思いますが…(^_^;)考えてみれば、6月に入って初めてのブログになります。

◎日本語の組み方 縦書き編

日本語の書籍を作る場合、それが縦書きでも横書きでも一定の組み方とかルールとかがありますよね。私の本棚にも、基本的なマニュアル本として、『文字の組方ルールブック タテ組編』(日本エディタースクール 2001年)、『同 ヨコ組編』(同)、園部実『編集入門  第4版』ダヴィッド社 1987年初版)、『明解 クリエイターのための印刷ガイドブック 基礎編』(玄光社 1997年初版) といった本が並んでいます。とくに日本エディタースクールの2冊は薄いながらも、いやそれだけに端的にまとまっていて重宝しています。

さてそれが電子書籍ではどうなるかということで、これはシャープのXMDFという電子書籍の規格の開発に関するサイトからひっぱてきたものですが(XMDF 進化し続ける日本初の電子書籍技術 第1回 「XMDF」10年にわたる日本語電子書籍技術)、ここでは例えば日本語縦書きのルールとして次のようなものをあげています。

・フォントサイズ

・段落(行頭インデント)…この場合は、行頭を1文字下げること。

・段落揃え

・ルビ

・アンダーライン

・数字の縦中横(縦組みの文章に横文字の数字を入れること)

・禁則処理(「、」や「。」「(  )」「〈 〉」 などを行頭に出さないようにすること)

・英文の横書き表示

・挿絵、図に対する文字の回り込み

・余白

もちろん、この他にもいろいろとあります。でも、基本的には縦書きの組み方に関するルールを適用しているに過ぎませんよね。だから、これだけでも、あるいはこんなものをと思うかも知れませんが、それを実現すること自体が難しい技術なのでしょう。このあたりのルールであれば、私たちは何の気なしにワープロで表現しているわけですから、その恩恵といったら、実はたいへんなものだったのですね。

◎古文書筆写のためのルール (当たり前ですが)縦書き編

このサイトは、古文書を電子書籍の技術を応用した方法で公開するということをめざしていますが、ただ「印刷」するだけなら、それこそPDFファイルにしてしまえばいいですね。ここでは具体的に、先のXMDFのほかにE-PUB、それにHTML5も縦書きに対応するといっていますので、こうした技術を想定しています。もっともE-PUBなどは縦書きへの対応が今のところ6月頃とアナウンスされていましたので、もうちょっとかかりそうです。いずれにしてもPDFファイルを含めて、こうした技術についての希望といいますが、希望的観測といいますか、そうした私見はまた今後詳しく述べたいと思っています。

ここでは、以前にも予告しましたように、古文書を筆写するには、とくにワープロで筆写するにはどんなルールがあるのかということを事例を挙げて簡単にまとめておきたいと思います。これらは基本的に紙に印刷するということを前提としたものですが、仕上がりとしては電子書籍の場合も変わらないでしょう。

(1)まずは、史料集を本にするとして、基本的な仕様を決めていきます。例えば、

判型―A5判かB5判かA4判か。ここではB5判とします。

組(頁仕様)―1ページの仕様(1行の文字数×行数×段組)を決めていきます。ここでは1行が28字で、20字の2段組とします。これですと、1ページは1,120文字で、400字詰の原稿用紙で換算しますと2.8枚分ということになりますね。

文字の大きさ(フォント)―普通、書籍の文字は9ポイントですが、目もだんだんと遠くなってきましたし、10ポイントの明朝体でいきましょうか。ポイントは活字の大きさで、電算写植の場合は級数が使われることが多いのですが、活字派の私としてはここはポイントで。基本の文字の大きさが10ポイントだとすると、助詞は8ポイントで右寄せになります。だいたい外字を作っておくと、本文10ポイントであれば8ポイント、9ポイントであれば7ポイント程度になりますね。なお、私がフォントでよく使うのはモリサワフォントですね。

字間ベタすなわち行間の間隔は「0」とします。

行間―行間なんてなんでも良さそうですが、この行間に肩書きを入れたり、ルビを振ったり、古文書に訂正がある場合はその訂正部分を書き込んだりしますので、充分にとっておくことが肝心です。通常は、文字と同じポイント数分を行間として空けます。つまりこのばあい、最低10ポイント分を行間とするわけです。この行間に入れる文字で、肩書きは8ポイントで左側に寄せますルビは7ポイント、(ママ)〈原文がこの通りですよという意味〉は6.5ポイントとちょっと小さくします。行間に書く訂正部分は8ポイントになりますね。なお、本文に線などが引かれて消されている場合で、その文字が確認できる場合は、右の行間に「みせけち」といって原文には抹消がありますよという記号を書くのですが、ワープロでは左右にルビは打てませんから、こうした抹消部分はもう思い切って抹消線(中線)を引いてしまいます

この他に、天地左右の余白やノンブル(ページ)、柱の位置などがありますが、省略しますね。

(2)次に古文書を筆写する場合の基本的な位置関係などについてルールを決めていきます。例えば、

古文書の表題(タイトル)は、4字下げて5字目から書き始める。

一つ書きの場合、「一」の下に「、」を打つか打たないか。私は打たないことにしています。

一つ書きの場合、次の行から1字分を字下げする(インデント)。

年月日の位置は、2字下げて3字目から書き始める。差出人が連名である場合、基本的に第1番目の人名の上に書く。

差出人(発給者)の位置は、印鑑がある場合は、下1字分をあけるようにして、名前は5字の均等割付とする。これは村方文書を想定した場合で、基本的に百姓身分の名字は公認されていませんから名前だけで、その名前も最も長いものが「次郎右衛門」などほとんど5文字で収まるからです。名字がある場合はこの限りではありません。また、印鑑がなければ、印鑑を入れる部分もあけます。つまり名前の下は2文字あけることになります。結局、名前は下から7文字目から書き始めるということになりますね。住所などの国郡村名や両種名などは、これを基準に古文書を見ながら決めていきます。

請取人(受給者)の位置は、上から3字下げて4文字目から書き始める、ただし、請取人については、現文書を見て柔軟に対応する。相手の地位などによって位置がかなり異なるからである。

本当に基本的なところの、あくまでも私自身のルールですが、こうして一つ一つの体裁についてルールを定めていくわけです。もちろん、この他にも(中略)などの位置はどうするか、数字が並ぶような場合はどのようにバランスをとるかなど、さまざまな場合が想定されてきます。もっとも気を使うのは、原文書にあわせて行間をどのように調整するかということです。2分の1にするとか、ベタ(ぴったりくっつける)など、ケースバイケースなのですが、2段組の場合は、行間を調整しても、その後の処置で上下の段落の行の位置が同じ(通る)になるようにしたいものです。次回に載せる予定の「筆写要項」では、そのことも意識して基本的な行間の詰め方を決めるようにしています。

◎実際にやってみれば…

実際にやってみましょう。この古文書は、このシリーズの(5)で載せたものです(裏書きの部分は省略します)。

これを上の要領で筆写すると以下のようになります。

これは、いわゆる「白文」で、原文書の通りに本文を改行してみました。文中にある四角の部分は、その文字数の分だけ空けることを示しています。黒い四角は字が抹消されて読めないことを示します。右行間にはその訂正部分も書き入れています。また、差出人の連名はすべて5文字の均等割付になっており、それぞれの行間には肩書きを書いています。各人に印鑑が押されているので、その下は1字分空けてあります。請取人の韮山役所は、原文書で一番上から書かれていますので、その通りとしました。

こちらでは、改行はせずに、「読点」「返り点」を入れてみました。通常、史料集を作成するときは、あまり返り点は付けません。これは前にも書きましたように、江戸時代の古文書(漢文)の返り点が非常に単純化されたものだからかと思います。読点も本来ならば「句読点」を入れるべきかも知れませんが、これもあくまでも読むための補助という位置づけで「読点」のみになったのだと考えられます。なかなか古文書はもとより、史料そのものを読むことができる人が少なくなってきましたから、これからは変わってくるかも知れませんね。なお、こちらでは、「白文」の3行目にあった行間の文章をそのまま中に入れてしまいました。

このように読点(返り点を含む)を入れたものを「釈文(しゃくぶん)」と呼ぶようにしています。これは『新横須賀市史』の近世編Ⅱを編さんしていた際に、史料の読み方の解説を入れようじゃないかということになって、じゃぁこれを「白文」に対して何というんだという議論になったのですが、そこで近世部会のトップである大口勇次郎先生(お茶の水大学名誉教授)が、国文学の先生などに相談をされて、その結果、「釈文」が一番適切であろうということになりました。以来、私も授業などでも「釈文」と呼ぶことにしています。

上の古文書は一つ書きではありませんが、また、行間の調整等もありませんが、一応、先のルールに則って書いたものであることがわかるかと思います。これで返り点の通りに文書を読んでいけば、いわゆる「読み下し文(書き下し文)」となるわけです。せっかくですから、書き下し文もアップしておきます。

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