電子書籍時代の史料翻刻(13) PDFファイルの画期性


「電子書籍時代の史料翻刻」と題して12回書いてきましたが、ここまでは、とりあえず、ワープロソフトを使ってここまでできるようになったよという、いわばその歴史と現状のレポートみたいなものでした。ここからいよいよこれからやりたいことを書いていく訳ですが、そのためにはやはり「PDFファイル」というものの登場のその意味について触れておく必要があるでしょう。

◎PDFファイルの画期性

PDFPartuble Docment Formatの頭文字をとったもので、アメリカのアドビシステム社の製品です。Wikipediaによれば、「電子上の文書に関するファイルフォーマット」で、1993年にAdobe Acrobatで採用されたとあり、その特長は「作成したドキュメントを異なる環境のコンピュータで元のレイアウトどおりに表示・印刷できる」「印刷物と同じレイアウトの電子ドキュメントを公開するために利用される」とあります。アドビ社が、アクロバット・リーダーをいうソフトを無償で配って、あるいはPCを買うとアクロバット・リーダーが初めから入っていることで、PDFファイルは急速に普及しました。よくある手法ですが、アドビ社にすればとにかく普及させることが目的で、実際、PDFファイルはデファクト・スタンダード(事実上の標準規格)の電子ファイルフォーマットとなりました。

「印刷物」が「紙」ではなくて、「ファイル」という形で配布できる。実は、それだけでも画期的な話なのですが、歴史を学ぶ立場から、さらにその特長をまとめてみると、だいたい以下のような点が指摘できるできるでしょう。

(1)PDFファイルが読めるソフト(アクロバット・リーダー)があれば、PC(もちろん、WindowsでもMacでもUnixなどのいずれでも)、ipad、シャープのガラパゴスでも、ソニーのリーダーのような、タブレット型PCでも、電子書籍専用機でも、あるいはスマートフォン(iPhoneでもAndroid-OS搭載機でも)読むことができる。

(2)アプリケーションソフトを選ばない。すべて「印刷」することで簡単にPDFファイルにすることができる。アドビ社のAcrobat(現在はVer.9)が代表的なソフトだが、今はいろいろなメーカーからPDFファイル作成用あるいは編集用のソフトが出ている。

(3)いろいろなソフトで作成したPDFファイルを一つにまとめることができる。AcrobatのVer.6からはページも打つことができるようになった(Ver.5まではページを打つためのソフトを別に購入しなければならなかった。それが意外に高かった^^;)

(4)「しおり」機能を使えば、任意のページに飛ぶことができる。

(5)他のPDFファイルや、ソフト、インターネットなどにリンクが貼れる。

(6)テキスト付きPDFファイルを作成すれば、文字の検索ができて、その部分に飛べたり、その文字が出てくるか所をまとめて表示できる。テキスト付きPDFファイルは、PDFファイルを作成するときに設定によって自動的に作成することができるが、スキャニングした者をPDFファイルにしたものでもOCR(文字認識ソフト)を使えば、100%読み取ることはできないが、ある程度検索できる程度にはテキスト化してくれる。OCR機能は、Acrobatに初めから入っている。最近はそうした機能を使って、論文や書籍などを「自炊」と称して自分でPDFファイル化することが流行っている。

(7)画像も同様にPDFファイル化して扱うことができる。つまり古文書の写真版をPDFファイル化することでいつでもPCやipad、スマートフォンなどでみるようにすることができる。スキャニングしたものでも、デジタルカメラで撮影したものでも、いずれも簡単に古文書PDFファイルが作れる。しかも、「しおり」機能を使えば、指定した部分に自由に移動することができる、電子古文書ファイルが作成できる。

だいたいこういったところでしょうか。使い方次第では本当に便利なものです。とくにテキスト付きにすれば検索機能が使えますし、「しおり」を使えば、好きなところに移動することができるようになります。それはまさしくコンピュータの特性を活かした機能であるといえるでしょう。もちろん欠点もあります。それはまた次回ということで、ここではとくに(7)の機能、つまり、古文書をPDFファイル化するということ、それをipadで見るということについて少しまとめておきましょう。

◎古文書をPDFファイル化してipadで見る

ipadは10.1型の画面サイズですから、だいたい紙の大きさでいえば、A4サイズくらいに相当するでしょう。江戸時代の古文書であれば、A4サイズに引き延ばせればもう充分です。デジタルカメラが普及する以前は、写真のサービスサイズに焼き付けて読んでいまして、文字が見にくかったら虫眼鏡などを利用して拡大していました。銀塩写真の時代は、それこそフィルム代から現像代、焼き付け代とかなりお金がかかりますから、なかなかそうそうは写真にもできません。コピーが許されればそれこそ原寸大あるいはA4くらいに縮小してたくさん複写できますから助かりました。でも、今は保存の観点から、原文書のコピーについても結構厳しくなりました。

一時、ビデオカメラで撮影するといったことが提唱されて、論文等が書かれたこともありましたが、あれは当初からナンセンスだと思っていました。作業風景など、「動」を「動」のもので記録するのはまさに適任ですが、「静」のものを「動」の媒体で記録しても、結局テレビ画面上でストップさせてみるという、かなり限定的な使い方しかできません。でも、デジタルカメラの解像度が低かった時代では、100万画素相当の解像度を持っていたビデオカメラであればそれでも実用的だったのですね。とくにテレビ(それも今のハイビジョンではないブラウン管のテレビ)は解像度が低いですから、それなりに読むことができます。何せ一番は初めに市販された一般用のデジカメ、カシオのQV10っという機種は、私も購入しましたが、何と30万画素という、今では信じられないような解像度です。印刷しても切手の大きさぐらいにしかなりませんでした(^_^;)

スキャナーも高くて、今では1万円以下の製品もざらですが、私がはじめて購入した1990年代の前半は、安いと思って購入して、8万円以上しました。それも最大解像度は400dpiでした。今はスキャナーはもちろん、デジタルカメラも急速に進歩しましたからね。古文書を撮影して、それを印刷してもそれなりに使えるようになったのは、1999年の頃、ちょうど200万画素の製品が発売されてからのことでした。今はコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)でも1000万画素を越えていますから、まさに隔世の感です。

下の写真版は、これから電子書籍版の電子史料としてアップしようと思っている、栃木県安蘇郡閑馬村の村落小学校閑馬学校関係史料の原文書です。明治9年(1876)の「御用留」で、もちろん、写真版もアップしようと思っています。

閑馬学校については「プロジェクト研究」を参考にしていただくことにして、ここではデジタルカメラで撮影したものをPDFファイルに変換して、ipadで読むことができるようにしています。もうすでにそうやっている方も大勢いらっしゃると思いますが、このようにしてしまえば、たくさんの古文書をそれこそPCやipadなどに大量に保存することができるようになります。さらに、ドロップボックスなどを使えば、いちいちPCやipadなどに保存しなくても、インターネットに繋がる環境であれば、それこそどこでもいつでもみることができる、それこそクラウド環境を作ることができます。クラウド・コンピュータノマド・コンピュータ環境についてはまたいずれ書いていきたいと思いますが、とにかく本当に環境的にはすごい時代になったものです。

閑馬学校「御用留」の表紙

「御用留」の一部分

上の「御用留」を拡大したところ

ipadでは、指先一つで拡大・縮小(ピンチアウト、ピンチイン)ができますから、小さくてよく読めないところがあれば、パッと拡大して確認することができます。ここではGood ReaderというPDFファイルなどを閲覧するためのソフトを使っています。 これは近世文書より、近現代の史料を読むときに重宝しますね。最近は、MacやWindowsのノートパソコンのトラックパッドでも簡単に指先で拡大縮小ができるようになってきたで、本当に便利です。

いずれにしても、PDFファイルにした古文書の写真版を作成すればいつでもどこでも大量の古文書を持ち歩くことが可能ですし、それを見ながら筆写することも可能になります。歴史研究にとっては、そのメリットが実は一番大きいかも知れませんね。

馬場弘臣 のプロフィール写真
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