電子書籍時代の史料翻刻(15) EPUB3.0への期待(終)


またまた間が空いてしまいましたが、この「電子書籍時代の史料翻刻」にも一応の区切りをつけたいと思います。何とか無事に予定どおり12日には退院できることにもなりましたし(全然関係ないですが^^;)

◎デジタルコンバージョンズ

「これからはコンピュータを介在して(当時はあまりデジタル技術とかいった言葉は使いませんでした。もちろんITという言葉もありませんでした)、通信と放送と出版といったメディアが一つに融合していく時代が来る」

1990年代の中頃のことです。高田馬場の専門学校で非常勤講師をしていた私は、文化史の授業の中で、さかんにそんな話をしていました。もちろん、ちゃきちゃきの文系人間にとって、当時のコンピュータ雑誌の受け売りに過ぎないのですが、そのこと自体にはものすごくリアリティを感じていました。それを「デジタルコンバージョンズ」という用語で表現するということは、実は最近になって知りました。電子書籍の時代というのは、まさにこのデジタルコンバージョンズが、本当の意味で実現しようとしているのだと思います。それは確かにipadという新たな電子機器の登場が一つの大きな分岐点であったことは間違いないようです。

◎再びipadの衝撃

先にAdobeのPDFファイルとFuji XeroxのDocuWorksの二つの電子文書フォーマットについて紹介しました。ワープロなどで作成した文書のレイアウトをそのまま崩さずに電子文書化できることはそれだけでも画期的なことでした。加えて歴史学での活用という面では、古文書そのものの写真版を容量が許すだけそのまま持ち歩けますし、それを拡大してみることも自由。さらに電子文書でも電子画像史料でもPDFファイルの「しおり」機能などを使うことで順番にめくっていかなくとも自由に好きなところに飛ぶこともできます。ExcelやHTMLなどで作った表にリンクを張って画像を表示させることも自由です。

最近は、書籍や論文をスキャナー(とくに多くの紙をセットできるドキュメントスキャナー)で読み込んでPDFファイル化してしまうということも流行っています。OCR(光学式文字読み取りソフト)で読み込んでしまえば、テキスト付きの電子文書ファイルにできるので、文字検索も自由にできるようになります。アクロバットなどで作成した電子文書に比べればまだまだ完全とはいえませんが、ともかくこれを通称「自炊」といって、手元に置く必要のない書籍などはそのまま処分してしまうといったことも行なわれるようになりました。

ただし、PDFファイルにせよDocuWorksファイルにせよ、レイアウトを再現するといっても、それは「固定化」された状態で再現されているだけで、拡大しても全体が大きくなるだけで、当然のことながら、文書そのものは画面からはみ出してしまいます。

ipadの表示では、いうまでもなくタテ、ヨコが自由に回転しますし、PDFファイルであっても両開きに設定しておけば、ヨコにすれば2ページ分を表示し、タテにすれば1ページ分を大きく表示するようになります。アプリケーションによりますが、文字検索もできます。そしてピンチアウト(Pinch-out)とピンチイン(Pinch-in)、つまり2本の指で画面を開いたりつぼめたりすることで、拡大縮小が瞬時にできます。これはGoogleのandroid osを載せた電子機器などでも一緒です。でも、PDFファイルやDocuWorksファイルでは、拡大してもやはり文字が大きくなるだけで画面からはみ出してしまうことには変わりはありません。

ところが「電子書籍」のフォーマットであれば、拡大しても縮小してもその文書のレイアウトがはみ出したりすることなく(1行の字数とかは変わりますが)保持されるのです。 画像はもちろんのこと、映像を挿入することもリンクを張ることも自由な電子書籍の可能性に比べればほんの小さなことに過ぎないかも知れませんが、それはやはり画期的なことでした。もともと史料の翻刻などはテキスト処理が中心なのですから。とにかく、どんな状態でもレイアウトを保持して読むことができるということの意味は大きい。もちろん縦書きです!!

◎電子書籍のフォーマットは… EPUB3.0への期待

電子書籍については、2010年度が「電子書籍元年」などと呼ばれて、IT、通信、放送、出版、印刷等々多様な企業や団体が離合集散して新たな時代への対応を模索しています。量はさておいて、すでに縦書きの電子書籍も普通に読めるようになりました。しかしながら、個人でこうしたものを作成してPCやipadのような機器に入れておきたい!と思っても、今はまだちょっと難しいのが現状です。

日本語の電子書籍フォーマットのあり方に話を戻しますと、とりあえず必要な条件は、(1)縦書き、(2)ルビ、(3)禁則処理の3条件が基本となるでしょうし、これに数字の縦中横、英文の横書き、インデントの設定、そして行間の処理などが問題となるでしょう。

こうした電子書籍のフォーマットとしては、どうもWeb技術であるHTML5にシャープのXMDF、そしてアメリカの電子書籍の標準化団体であるIDPF(International Digital Publishing Forum 国際電子出版フォーラム)が策定しているEPUB(イーパブ)が有力なようです。さすがに技術的なことはさっぱりわかりませんのでこれ以上口は出しませんが(^_^;)、HTML5はさておいて、もっとも縦書きで歴史のあるシャープのXMDFについては、今年の7月26日にXMDF作成用アプリケーションが無償で提供されるようになったのですが、提供先は企業や団体に限るようで、残念ながら個人は含まれておりません。ここはあきらめるしかないようです。

EPUBについては、今の企画である2.0では縦書きに対応しておりません。すでにPDFファイルからEPUBを作成するソフトなどが販売されていたりするのですが(Xilisoft PDF EPUB 変換など)、当然ながら縦書き表示はできなくて、無理にやってみたら、数十ページの文書が100数十ページになって、しかもレイアウトなんかばらばら。当たり前ですよね、対応していないのですから。ちなみに横書きでもまだまだ完全にレイアウトを再現するには難があるようです。

そのEPUBも5月23日に日本語縦書きに対応したEPUB3.0の仕様書がようやく策定されたばかりで、いよいよこれからといったところです。でも、そもそもどうやってEPUB文書を作成するのでしょうか?と、思っていたら、Adobeのアナウンスで、同社のInDesign CS5といったDTPソフトに組み込んで、出力形式としてEPUBを選べば作成できるようにするとか…。そうなるとInDesign(インデザイン)の使い方を覚えなければいけないかと思いますが、考えてみれば、ということは、例えば一太郎とか、WordとかいったワープロソフトにもEPUBフォーマットへの出力ができるようになるのでしょうか。もちろん、PDFファイル変換ソフトみたいなものも発売されるのでしょうが、そう願いたいものですね。できるだけレイアウトが崩れないようにしたいものです。

◎史料の翻刻 これからとりあえずやりたいことは…

本サイトの個別プロジェクト研究の研究概要のところでも書いていますが、現在のプロジェクトでは、栃木県安蘇郡閑馬村(かんまむら)の村落小学校閑馬学校関係の史料を電子史料として公開することを予定しています。今のところ(1)史料の写真の公開(おそらくPDFファイル)、(2)翻刻した史料のPDFファイルでの公開、そして(3)同じく翻刻史料のEPUBでの公開を考えています。EPUBでは、用語解説や注をポップアップ画面で説明したり、あるいはリンクを張ったりできないかとも思っていますし、(1)の写真版との連携なども模索したいと思っています。

ただし、このように私自身が今年は病に倒れてしまいましたし(ちょっと大げさですが)、EPUB3.0もまだまだこれからですから、今年度中にはどうでしょう。難しいかも知れませんね。とりあえず、一つずつ、まずは明治7年(1874)の「御用留」の写真版の公開とPDFファイルの公開くらいからはじめてみる予定です。アップするときにはまたブログします(こんな動詞はあるのでしょうか?)。また、来年度には翻刻した史料集も刊行する予定です。やはり「本」にすること、活字にすることにはこだわりがあります。でも、できれば一日も早く「電子史料」の作成を試してみたいものです。乞うご期待です(^^)/

たいした内容ではなかったですが、長期にわたりお読みいただいた方、ありがとうございました。

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