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『幕末風聞集』② 彦根藩主井伊直弼の内密申上書

メディアドゥさんに聞いたところでは、今月10日(土)に『幕末風聞集 増補改訂版』の予約が始まってから、17日(土)までの間に48冊ご購入いただいたそうです。野の花出版社でも10冊購入しましたが、それでも意外に多くの方に購入いただきましたようで、厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

それにしてもちょっと見直すと、やはり修正すべき点が出てきて、本当に穴があったら入りたい気持ちになります。お詫びにという訳ではありません。実はまたまた宣伝を兼ねまして、本日は『幕末風聞集』の内容を少し紹介しておきましょうか。

アメリカ東インド艦隊司令長官兼遣日特派大使マシュー・カルブレイス・ペリー(Matthew Calbraith Perry)率いる4隻の艦隊が浦賀沖に姿を現したのが、嘉永6年(1853)の6月3日。ペリーが久里浜に上陸してアメリカ大統領フィルモアの国書を手交したのが6月6日。前回は、その久里浜上陸で主に警衛の任務を担っていたのが近江彦根藩井伊家だと書きました。今回は『幕末風聞集』14ページにある井伊掃部頭すなわち井伊直弼の6月12日付の内密申上書を紹介しましょう。すべて書き下し文に改めております。

 

    今般渡船の異国人忍び探るの書
○亜墨利加州ワスヒングトンの由申し候得共(もうしそうらえども)、実はカルホルニヤの軍船にて、アメリカには都て(すべて)十一ケ国に別(わか)ち居り、ワスヒングトンと申すはアメリカ一円の国にこれ有り都府(とふ)故、右の通り申し立て候哉(や)に候得ども左はこれ無く、カルホルニヤはやはり共和政治に属し居り候処、アメリカよりこれまで度々日本へ通商相頼み候得共御取り用いこれ無く、これよりこの度カルホニヤの軍船日本へ使節として通商相願い候儀故、当節御受け取りに相成り候書翰の義は、アメリカ国王より差し越し候趣にこれ有り候筋成就の上は、恩賞として大国に任ずべきとの約定にこれ有る由、この度渡来の異船跡々追々同国の船とも当湊(みなと)へ集り候趣、最初申し候は、右の類の船七艘琉球国に残し置き、当国の模様により即刻呼び寄せ申すべき心組の由相聞け、且つ当秋・冬渡来いたすべく申し聞け候得共、間合もこれ無き義に付き、明年夏気に至り候はば(どうらわば)渡来仕るべき趣(おもむき)相聞け候。取り留めざるの儀には御座候得共(ござそうらえども)、密々異人船へ乗り入らせ始末相探り候。内々承り及び候間(あいだ)、右内密申し上げ置き候間、御油断無く御配慮然(しか(るべきと存じ奉り候。以上。
    六月十二日           井伊掃部頭(直弼)

ペリーが久里浜に上陸して3日後のものですね。宛先が書かれていませんが、幕府宛であることは間違いはないでしょう。異国人に対して「忍び探る」といい「内密」の申し上げるあります。これによれば…。

(ぺりーら)はアメリカ州(この場合は「国」のこと)ワシントンから来たと申しておりますが、実際はカリフォルニアの軍船です。アメリカ国はすべて11の国(この場合は「州」のこと)に分かれており、ワシントンはアメリカの首都であるからこのように言っていると思われます。しかしながらそうではなく、カリフォルニアはやはり共和政治に属していて、これまでたびたび日本へ通商を頼んできたけれども承認されなかったために、今回はカリフォルニアの軍船を日本へ使節として遣わして通商を願い出ているので、今度受け取った書簡はアメリカ国王(大統領のこと)より遣わされたものであります。通商が成就したならば恩賞として(ペリーには)大国に任ずるという約定となっていると言われています。大国はこの場合アメリカの大きな州のことで、その責任者(州知事クラス)に任命されるということでしょう。今回渡来した異国船に続いて同国の船が当湊(浦賀)の集まってくるとのことで、最初に申しておりましたのは、右のような船を7隻琉球国に残しておき、今回の様子にしたがってすぐさま呼び寄せるようにと申し聞かせ、かつ本年の秋か冬に渡来するように申し聞かせていたとのことです。しかしながら時間もないので、来年の夏になったら渡来するつもりあるとのことです。とりとめの無いことではございますが、内密に異国船に乗り込んで事の次第を探って参りました。内々に承ったことで、内密に申し上げますので、御油断のないように御配慮するべきであろうかと存じます。

だいたいこんな内容になろうかと思います。井伊直弼が当時どこに居たかはわかりませんが、恐らく江戸にいたのではないかと思われます。直弼もまた、幕府による江戸湾防備の役割に応じて、積極的に情報を収集していた様子を知ることができるでしょう。

こちらは2007年に横須賀市史の調査で訪れた際に写した彦根城とひこにゃんです!

投稿者プロフィール

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!
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