母の手料理

今日のつぶやき
母の手料理

もう少し母の話をしたいと思います。母は本当に働き者で、じっとしていることがありませんでした。農作業はもちろんのこと、食事の用意や洗濯などの家事もやっていましたから、とにかく1日中動きっぱなしでした。それでも祖母が元気だった頃は祖母が家事をやってくれていたのですが、私が中学3年生の時に脳梗塞で倒れた後はそれも叶わなくなっていました。祖母の料理も好きだったのですが、母の料理はやはり格別でした。ただの福岡の田舎料理で、私も18歳までしか実家にいませんでしたが、やはり私は母の味で育っていたのだと思います。ちなみに祖母の料理で1番好きだったのは、さば寿司です。さばが新鮮な時期にだけ作ってくれるもので、内臓を取り除いて酢で締めたさばの中に酢飯を詰めていきます。丸ごとのさばの中に酢飯を詰めるのですかから、それはもう絶品でした。

では、母の料理は…と考えると、祝い事や正月、盆の集りには必ず出される①ガメ煮、夏、長なすとニガウリが美味しい頃に作ってくれた②しげやき、冬の定番③だご汁、料亭のものより味か濃いめの④茶碗蒸し、母の実家がシイタケ栽培をやっていたからか⑤シイタケご飯等々、本当に田舎料理の数々です。

ガメ煮は筑前煮、煮しめともいいます。シイタケ、タケノコ、ジャガイモ、ニンジン、黒コンニャク、鶏肉などが入っていて栄養も満点です。

あまり写りがよくありませんが、これはお盆に親戚が集まる際の準備の写真です。それぞれにガメ煮と吸物が用意されています。右下のガメ煮が1番鮮明でしょうか。福岡では欠かせない料理です。ちなみにお寿司の向こうにある料理は注文したものですが、これも福岡ではメジャーな鉢盛りという料理です。

なんとも豪快なうどんに目が行ってしまいますが(^^;)お釜の中にシイタケご飯があり、その向かって右側にあるのがしげやきです。ニガウリ、長なすなどを白味噌で煮ます。

こちらがだご汁ですね。だんご汁とも言いますし、関東で言うところのいわゆる「すいとん」です。ちくわやお揚げ、里芋などと一緒に煮ます。これは何と言ってもだごが美味しくないと話になりません。母はよくA-coopで買っていました。A-coopはAgricultureのCoop、つまり農協のお店ですね。

でも、何と言っても絶品は、母が漬けた高菜漬けです。高菜はもちろん実家の畑で母が育てていました。高菜は樽に漬けていました。高菜ひと束ごとに塩と唐辛子をまき、さらに高菜を入れて塩と唐辛子をまき…をくり返し、最後に石を乗せます。でも、それで終わりではなく、漬け込んだら、水がたまるごとにその水を取除く作業をくり返します。母が漬けた高菜は辛子高菜というほど辛くはないですが、それだけに絶妙な辛さが何と言っても食をそそるのです。

正月や盆に来た親戚ももらって帰っていました。高菜は漬ける人によって、家ごとに味が違います。だから、農家ならばたぶん、自分の家の高菜が1番美味しいと言うかも知れません。でも、だからこそ、やっぱり母の高菜が私にとっては1番です!高菜は他の漬物と違って、油で炒めるのがスタンダードです。その揚げたての何とも言えない香りと暖かさが、これまた暖かいご飯によく合うのです。これに同じく母が漬けた白菜にべったら漬けがあったらもう他には何もいらないです。

こちらの写真はこの夏のものです。左上はうちの畑で採れた長なすとゴーヤ、ミョウガを油で炒めたもの。これもまた実家の夏の定番でした。この高菜は母のものではないですが、妹がいろんな高菜を食べ比べて、1番母の味に近いものを“発見”して送ってくれたものです。これはお店に出るときにしか買えませんので、出るとすぐに送ってくれます。下の写真のようにべったら漬けを含めてこれらを皿に盛り、溜まり醤油をかけて食べます。これだけもだいぶ母の味に近づいています。

こちらは、同じくうちの畑で採れた長なすでかみさんが作ってくれたしげやきです。さらに…。

こちらもかみさんが作ってくれただご汁です。キノコやさつま揚げなども入っていて、こちらも母のだご汁より豪華ですね。母が亡くなった後、地元のお店でだご汁の素を買ってきました。こちらに帰ったら、だご汁が食べたいと言って、やはりかみさんが作ってくれました。

馬場家のだご汁はもともと味噌味だったものを母が醤油に変えたと言っていました。祖母の味を母が改良したわけで、そうして母の味ができあがっていったのでした。それをかみさんが今、受け継いでくれています。娘たちもガメ煮やしげやき、だご汁が、そして何より母の高菜が大好きでした。どんな高価な料理よりもこうした田舎の味を知ってくれていること、それを好んでくれていることが何よりの財産かなと思います。それを受け継いでくれているかみさんにも感謝です。これを伝統の味というのでしょう。

あ、もう一つ、もやしをたっぷり入れた白味噌の豚汁も母の味でした。暖かい炊きたてのご飯に、母が漬けた高菜の油炒めと、同じく母が漬けた白菜とべったら漬けに溜まり醤油をかけ、もやしたっぷりの豚汁があれば他には何もいらないです。2杯目のご飯は、八女茶を入れて高菜と共にかき込みます。絶対に叶うことのない私の最期の晩餐です。

投稿者プロフィール

馬場 弘臣

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!

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