昨日は久びさに新橋演舞場に新派の芝居を観に行きました。前回は2014年の11月でしたね。川口松太郎作の「鶴八鶴次郎」と北條秀司作「京舞」でした。鶴八は七之助さん、鶴次郎は勘九郎さんとご兄弟の共演でした。京舞は、井上流家元4代目井上八千代さんを描いた、北條秀司新派作品の傑作で、ストーリーはもちろんのこと、舞があでやかで、とくに波野久里子さんの舞は見事です。さすが、ご兄弟のおばさまです。一緒に観に行った下の娘も京舞をいたく気に入りまして、もう一度観たいと言っております。
今回は、歌舞伎役者で2代目市川猿翁のお弟子さんであった市川月乃助さんが、新派の大名跡2代目喜多村緑郎を襲名されるということで、襲名披露公演です。初代喜多村緑郎は、女形の名役者だといわれています。
観たかった演目は、昼の部、川口松太郎作「振袖纏」、「口上」そして北條秀司作「深川年増」です。「振袖纏」は、尾上松也さん主演で、江戸の火消しを扱った時代物です。江戸の大店大黒屋の忰芳次郎(尾上松也)は、家業を嫌って家を飛び出し、火消し・ち組の頭藤右衛門(市川猿弥)のもとでいっぱしの纏持ちになっていた。場面は、大黒屋の番頭竹蔵(田口守)が芳次郎を取り戻しに来るところから始まります。芳次郎は、藤右衛門の娘お喜久(瀬戸摩純)とも恋仲で、竹蔵とのやり取りの中で、もし男の子が産まれたら、跡取りとして大黒屋に渡すことを約束します。実際、芳次郎は産まれたばかりの子どもを捨て子という形を使って、大黒屋の前に泣く泣く置いていきます。月日は流れ、ある家事の日、芳次郎は纏を振り続けて右目を失ってしまいます。右目を失った纏持ちに纏持ちは持たせられないという火消の頭たちの相談によって、芳次郎は代わりに小頭にすることが決まります。纏持ちを諦めきれない芳次郎は頭の藤右衛門にすがって頼みますが…
纏持ちという仕事は桜の花みてえなもんで、一夜に咲いて一夜に散る。散り際が汚ねえと喜ばれねえ花なんだぞ。いいか、十番組の花と言われた芳次郎の名を汚すな…
藤右衛門の言葉が心にしみます。これに大黒屋に渡した我が子の話が絡んで、芳次郎は、お喜久の助けを借りて、最後の纏を振る…。川口松太郎らしい人情話です。専門ですから、とりわけ江戸物には関心が高くなります。
口上はやはり花ですね。2代目喜多村緑郎をはじめ、2代目水谷八重子さん、波野久里子さんの新派両巨頭、そして尾上松也さん、市川猿弥さん、市川春猿さんらそうそうたるメンガーが口上を述べられて、なかなかでした。ちなみに松屋さんの妹の春本由香さんも新派に入団されて、今回がデビューとのことです。
北條秀司作「深川年増」の主演はもちろん、喜多村緑郎さんと水谷八重子さん。歌舞伎の下廻り役者の三十郎は、出世には資金がいるので、煎餅屋辰巳屋の娘およしに婿入りをし、副業できんつばを売っている。このおよし、無類のやきもち焼きにも関わらず、三十郎は深川扇橋の泥鰌政(どじょうまさ)というお店の女中おきん(水谷八重子)との間に、子どもまでもうけてしまう。場面は浅草の「十二階」という新名所、これは関東大震災で倒壊した凌雲閣のことですね。ここで三十郎の弟弟子伊之吉が、おきんに手切れ金を渡して別れてもらう交渉をするというところから始まります。悔しながらも泣く泣くこれを受け入れたおよしは、ただでは諦めず、子どもをおきんのもとに送り込んで、自分は手切れ金で大金持ちを装って、2人に近づいて…。といった、抱腹絶倒の喜劇へと展開していきます。さすがに北條芝居です。代表作の「狐狸狐狸ばなし」を彷彿とさせる芝居で、このドタバタ感はなんとなく、小学校の頃、よくテレビで観ていた吉本新喜劇や松竹新喜劇を思い出すような…。北條先生は大阪の出身です。詳しくはこのサイトの近代文化研究をご覧ください!。
いずれにしても、人の性、滑稽さ、だからこその優しさ、つまりは人情を笑いと涙で包み込む北條芝居全開ですね。ただ、浅草の凌雲閣の開業が明治23年(1890)ですから、この時代そのものがすでに歴史になっていて、パンフレットを読まなければ少しわかりづらくなっています。ちょっと、はじめにナレーションとかがあるとわかりやすいかも知れません。もっとも、明治以降のことより、江戸時代のことの方がわかるという私の特性によることかも知れませんが…(^_^;)
それにしても、最後に三十郎とおきんが舟で去って行くシーンにはびっくりしました。どうやって動いているのか…。さらには、花道を舟で引き上げていきます。う~む、すごい!あ、ネタバレですね。
◎北條邸の庭
この5月に久しぶりに北條邸に伺いました。なんやかやで1年半ほどになります。相変わらずの庭です。
家の中にまで、これはなんでしょう?はえてきていて、熊のぬいぐるみに絡まっています。美智留さんはこれを楽しんでいるんですね。
これは先月、8月に伺った時のものです。ぬいぐるみにからまった植物、成長してますね!ふっと見では3か月を経たものとは思えません。そして最後の写真ですが、これはニセアカシアの木にノウゼンカツラが絡まっている風景だそうです。わかりますでしょうか?外側のニセアカシアの木はすでに枯れていて、生い茂っているのは、真ん中にあるノウゼンカツラの木で、赤い花もノウゼンカツラの花です。相変わらず、何とも不思議で楽しい庭です。