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時代劇とは?ジャンル分けは可能か?

前回は時代劇はいつまでの時代を扱うかということについて考えてみました。これは春日太一さん(『時代劇入門』角川新書、2020年3月)もおっしゃっていますが、時代劇とは何か?とあまり現実的に細かく考えすぎても仕方がないかと思います。扱う年代もテーマも内容も虚実まとめて多種多様ですから、根を詰めると自己矛盾に陥ってしまいます。だから、だいたいこんな指標で…ぐらいの感覚でまとめておけばよいのではないかと私も思います。だから、とくにジャンル分けについてはいろんな考え方があって、それをつきあわせてみるのもおもしろのではないかと思っています。

ということで、今回は時代劇の分類ということについて考えてみましょう。ここでも春日さんの説を紹介しておきたいと思います。

①ヒーローもの
1)権力者・流浪型…新吾十番勝負、水戸黄門、将軍家光忍び旅
2)高身分・市井定住型…長七郎江戸日記、暴れん坊将軍、遠山の金さん
3)中身分・流浪型=素浪人…用心棒、椿三十郎、三匹の侍、子連れ狼、素浪人月影兵庫、素浪人花山大吉
4)低身分・流浪型=股旅…清水次郎長、木枯らし紋次郎、沓掛時次郎、国定忠治
5)中身分・定住型…銭形平次、鬼平犯科帳、半七捕物帳  ~仕掛人藤枝梅安
6)低身分・定住型=忍者・盗賊…服部半蔵、石川五右衛門、鼠小僧、雲霧仁左衛門
②歴史もの…NHK大河ドラマ → 史実に則った形で物語が展開
③長屋人情もの…どら平太、赤ひげ
④悲劇…切腹
⑤怪談もの…東海道四谷怪談

春日さんのジャンル分けによりますと、まずは①ヒーローものというジャンルがトップに来ます。昔ながらの言い方をすれば英雄譚ですか。それが身分ごとに貴種から忍者・盗賊まであって、それが流浪型か定住型に分かれるとなっていますね。この①ヒーローものの対極あるのが、③長屋人情ものと言えるでしょう。また、④悲劇というのも対極になるかも知れません。

それからNHK大河ドラマに代表されるような史実をもとにしたものが②歴史もの。史実に対しては全くの創作ものが挙げられるでしょう。もちろん、史実に則っても創作は入りますが。そして創作ものの中でも突出しているのが⑤怪談ものと言えるでしょうね。

こうやってみていきますと、時代劇の淵源として江戸時代の文化について触れておいた方がよいかと思います。「時代劇」というジャンルや言葉が定着するのはだいたい大正末期から昭和にかけての1920年代だと言われています。ただ、「物語」を現在起こったことと「歴史」とに分けて考えるというのは、江戸時代、読本や歌舞伎・浄瑠璃という分野に目を向けておく必要があると思います。まずは浮世草子が流行、歌舞伎が芝居として確立すると言われる元禄期(1688~1704)です。

a)歌舞伎・人形浄瑠璃…近松門左衛門(1653~1724)
・世話物 → 当時の現代劇…浄瑠璃・歌舞伎で、江戸時代の、主として町人社会の出来事や人物に取材した作品。恋愛・心中・殺人・怪談・盗賊などがテーマ。「曽根崎心中」「心中天の網島」
・時代物 → 当時の歴史劇…浄瑠璃・歌舞伎で江戸時代以前の武家社会に題材をとった作品。「国性爺合戦」
b)浮世草子…井原西鶴(1642~93)
・好色物 → 創作…好色を内容とする小説や脚本など。とくに、浮世草子を好色物、町人物、武家物、雑話物などと便宜的に分類する際の一つ。「好色一代男」「好色一代女」
・武家物 → 身分…浮世草子を、好色物・町人物・武家物・雑話物などと便宜的に分類する際の一つで、武家社会に題材をとった作品群。井原西鶴の「武道伝来記」「武家義理物語」
・町人物 → 身分…浮世草子のうち主として町人の経済生活を取り扱ったものの称。井原西鶴の「日本永代蔵」「世間胸算用」「西鶴織留」

歌舞伎・浄瑠璃の世界ではなんと言っても近松門左衛門(1653~1724)ですね。当時の出来事や人物を取り上げた「世話物」と歴史的な題材を取り上げた「時代物」というジャンル分けがありますね。

これに対して浮世草子では、井原西鶴(1642~93)がいます。

・好色物 → 創作…好色を内容とする小説や脚本など。とくに、浮世草子を好色物、町人物、武家物、雑話物などと便宜的に分類する際の一つ。「好色一代男」「好色一代女」
・武家物 → 身分…浮世草子を、好色物・町人物・武家物・雑話物などと便宜的に分類する際の一つで、武家社会に題材をとった作品群。井原西鶴の「武道伝来記」「武家義理物語」
・町人物 → 身分…浮世草子のうち主として町人の経済生活を取り扱ったものの称。井原西鶴の「日本永代蔵」「世間胸算用」「西鶴織留」

「好色物」というのは物語で、その内容になりますね。これに対して「武家物」「町人物」は身分的な区別になります。もちろん、創作が主ですが、実在の話もあります。歴史的な話というよりも当時の社会に照らした話が多いようです。

これに対して、江戸時代の後期には文化文政文化(1804~1830)というのがあって、さらに幕末から明治につながる脚本家として河竹黙阿弥(1816~1893)がいます。河竹はそれまでの歌舞伎と違って現在でも分るようなセリフ回しを使っています。

・生世話物 → 当時の現代劇…歌舞伎脚本の種類の名称。脚本の書かれた当時の世相、風俗、人情に取材し、演出や演技の上で写実的な社会劇である世話物のうち最も写実的傾向の著しい内容や演出による脚本類。
・白浪物 → 身分…賊を主人公にしたてた講談、歌舞伎などの総称。「白浪五人男」

「生世話物」(きぜわもの)は、世話物をもっと写実的にしたような話と言うことでしょうか。「白浪物」は賊を主人公にしたもので、今でも「白浪五人男」はよく上演されていますね。興味深いのは明治以降(1868~)になってのものです。

・御家物=御家狂言 → 身分…浄瑠璃、歌舞伎脚本で、江戸時代の将軍、大名家の御家騒動や仇討ちを題材とした狂言。
・活歴物 → 当時の歴史劇…歌舞伎の時代狂言のうちで、明治前期、史実に即して演出・上演した作品群。河竹黙阿弥「北条九代名家功」
・散切物 → 当時の現代劇…明治初期に行われた歌舞伎世話狂言の一種で、散切頭の人物が登場するところからいう。維新後の新風俗を取り入れた世相劇。

「御家物(御家狂言)」は、その当時はいなくなった武士(武家)を扱ったもので、「活歴物」と言われるジャンルも歴史を扱うということで、これにつながりますね。これらに対して当時の現代劇にあたるものが「散切物」ということになります。

つまり元禄歌舞伎が流行る頃から「現在」と「歴史」を区別する芝居や物語が一般的になってくる、庶民にも広がってくると言えるでしょう。それは文化文政文化以降にさらに発展していきます。さらにこれらの流れとは別に、鶴屋南北(1755~1829)の「東海道四谷怪談」に代表されるような、怪談を主題とした小説、芝居、浄瑠璃、講談、落語などのいわゆる「怪談物」が登場します。

要はこうした江戸時代における芝居や小説、講談などのジャンルから時代劇についてもジャンル分けが出来ないかなということです。それはまた次回に!!

新国劇「殺陣師 段平」 島田正吾の段平と緒形拳の澤田正二郎

投稿者プロフィール

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
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