死後との闘い
「私語」との闘いから、「死語」との闘いになって、今日は「死後」との闘い、と、まるで語呂合わせですね。考えてみれば、歴史研究者というのは、生前にどれだけのものを書き残したのかが問題ですが、同時にそれがどれだけ評価され続けるかも大事なことなのでしょう。
カナダとフランスの合作映画「みなさん、さようなら」(2004年公開)は、カナダの大学で歴史学を教える大学教授のレミという主人公の、最期の時をめぐるお話しです。レミは、麻薬中毒であったナタリーと出会い、こんな会話をします。
《episode 1》
レミ:歳を取って人生に執着し出すころ秒読み開始だ。残り20年、15年、10年。すると最後に何をしたいのかがわかってくる。(中略)先のことはわからんぞ。過去を理解できんのにどうやって未来を予言できる。自分の将来なんて誰にもわからんぞ。
ナタリー:執着しているのは今の人生じゃなく過去なんだね。
レミ:かもな…。
《episode 2》
レミ:せめて本を書くんだった。
ナタリー:何も書かなかったんだ。
レミ:あちこちにつまらん記事を書いただけだ。(中略)
ナタリー:どんな本を書きたかった?
レミ:収容所列島(ナチスの犯罪)だの、周期律だの。
ナタリー:名作を書く自信あった訳?
レミ:ないね。
ナタリー:なのに?
レミ:少なくとも書きゃあ後に残った。問題は何かを成し遂げることだ。できる範囲で自分の可能性を試したかどうかだ。そうすりゃあ安らかに眠れる。わしは失敗をした。
ナタリー:自覚しているだけましじゃない…。
実際にはレミはいくつもの本を書いているのですが、レミの後悔というのは、もっと深いものなのでしょうね。歴史家の矜持と言えばその通りですが、「死後との闘い」もあるのだなと、今の自分を引き締めたい想いです。
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