Professor's Tweet.NET

小田原藩の藩領支配組織図-取締役制と組合村-

これまでしつこいくらいに江戸時代の”村”について書いてきました。「江戸時代の”村” 本百姓と小農民経営と単婚小家族」(http://www.ihmlab.net/tweet/tweetblog/8430/)、「江戸時代の社会構造図 2つの幕藩体制」(http://www.ihmlab.net/tweet/tweetblog/8441/)、「江戸時代の“村”と明治の市制町村制、市町村合併」(http://www.ihmlab.net/tweet/tweetblog/8489/)、「現代の市町村は江戸時代の”村”が合併をくり返してできた! 厚木市編」(http://www.ihmlab.net/tweet/tweetblog/8574/)と続けてきました。それだけ取り上げるのは、言うまでもありませんが、工業化以前の社会では、農山漁業が中心となっていたからです。その中でも支配の単位としては、土地=田畑・屋敷地が中心となります。石高に結ばれた土地です。いずれにしても”村”は江戸社会にとって支配・生産活動・生活等々さまざまな側面で基盤となっていて、それが現在の市町村の基盤ともなっているのだと書きました。

こうした江戸時代の村落部は、別に”地方”と書いて”じかた”と呼びます。小田原藩の場合、村落部から年貢を取り、支配・管理するのは、”郡奉行”(こおりぶぎょう)-”代官”の役目で、その役所を”地方役所”(じかたやくしょ)といいます。だいたいどの藩も名称は異なってもそうした役職と組織が地方支配を担当します。ただし、村は独立して存在するだけでなく、さまざまな局面で連合しています。これらを”村連合”もしくは”組合村””などと呼びます。例えば、用水の管理(用水組合)、山野の利用(入会組合)などですね。これ以外にも地域支配の単位としての組合村があります。関東地方の場合、文政10年(1827)の幕府御取締り御改革で結成された”寄場組合”(御改革組合、改革組合村)が重要でありますが、小田原藩領には寄場組合は編成されておらず、独自の組合村を編成していました。詳しくは、「馬場研究室へようこそ」に収録している関係論文を参考していただければ思います(http://www.ihmlab.net/tweet/babalab/)。下図はこの組織を図案化したものです。こちらは慶応年間(1865~68)のものと考えていただければと思います。

さて、小田原藩では、いわゆる「国許(くにもと)」にあたる「城付領(しろつけりょう)」は、城のある相模国を中心に、駿河国と伊豆国にまたがっていて、これを「駿豆相(すんずそう)」と呼んでいます。この駿豆相の領地を東筋中筋西筋の3つに分けて支配していました。時代によってこの範囲は異なりますが、代官はこの筋ごとに管理していました。これを「筋分(すじわけ)」と称しています。この筋の範囲も時代によって変化するのですが、だいたい東筋は小田原城の東方面、中筋は箱根方面にかけての地域で、西筋は駿河国領分(小山町から御殿場市方面)と伊豆国の領地ですが、箱根方面は中筋だったり、西筋に組み込まれたりしています。

この三筋のうち、東筋に10、中筋に10、西筋に3の組合村が設定されていました。各組合村を構成する村々は、少なくて5か村、多くて11か村程度でした。各村には当然、名主・組頭・百姓代といった村役人がいます。その上で、組合村を運営するために、各組合村には1名ずつ「組合取締役」と称する役職が任命されていました。また、村方には村や百姓たちの風儀を監視する役目として、村役人とは別に「村方取締役」という役職が設定されていました。さらに、組合取締役を代表するものとして、各筋の組合取締役から1名ずつ「三筋惣代取締役」が任命されています。ただし、三筋惣代取締役は、慶応年間(1865~68)になってはじめて設置されたもののようです。このような広域の行政を担う役職を「中間層」もしくは「中間支配機構」と呼んでいます。

名主・組頭・百姓代といった従来からの村役人に加えて、広域的な行政組織として組合村を設定し、そこに「取締役」という組合村を運営する中間支配機構を設定したのが、江戸時代後期における小田原藩の地方支配の特徴なのでした。そしてこの図が、小田原藩にとって、「取締役」制度と組合村編成による地方支配の最終形態ということになるのです。近世後期の地方は、こうした広域行政体である組合村、村連合の存在を抜きにしては語れないのでした。

<A rel=”nofollow” HREF=”//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?rt=tf_mfw&ServiceVersion=20070822&MarketPlace=JP&ID=V20070822%2FJP%2Fomikun0f-22%2F8001%2Fee3a46ad-bbc1-4aa2-9595-c8dff81d1520&Operation=NoScript”>Amazon.co.jp ウィジェット</A>

投稿者プロフィール

馬場 弘臣東海大学教育開発研究センター教授
専門は日本近世史および大学史・教育史。
くわしくは、サイトの「馬場研究室へようこそ」まで!
モバイルバージョンを終了